匠の蔵~words of meister~の放送

表具処楽古堂【表具師 福岡】 匠:飯尾壽夫さん
2013年10月19日(土)オンエア
櫛田神社の『六曲屏風』『太宰府天満宮経巻』『仙?和尚書画』など、数々の有名書画の修復や表装を手掛ける『表具処楽古堂』の三代目、飯尾壽夫さん。神社仏閣を始め、博物館からも信頼される確かな技術で、作品の美術的価値を高める。
「表具師は、紙、布、糊を使用して、掛物、巻物、書画帖、屏風、襖などを作る仕事のことを指しますが、現在は殆どの表具師が分業で仕事を行なっているんですよね。そんな中、幸いにも私は、祖父と父から様々な技術を良いとこ取りしながら学ぶことができましたので、一人ですべての作業を行っています」。大学時代から父の仕事を手伝うようになり、卒業と同時に本格的に表具師の世界へと足を踏み入れた飯尾さん。その後、自らも日本画を学び、作家としての感性も磨いていったという。
「表具師の仕事を深めていこうと考えた時、自分自身にも作家としての目があれば役に立つと思ったんですよね。そして、同時に日本の歴史、ルーツにも目を向けることも大事です。私たちは日本の美術品を相手に仕事をしていますから、日本を知ることが必要だと思います」。そんな飯尾さんは、書画の世界における本紙と表具の関係に、ある一つのこだわりを持つ。
「親父は、表具は本紙をいかに引き立てるのかが仕事であって、表具は目立ってはいけないという考えでした。しかし私は、本紙も表具も同じように引き立て合う関係でなければならないではないかと思うんですよね。お互いがお互いをひとつの美術作品として引き立て合い、渾然一体となった姿というのが、一番理想的ではないかと思います。ですから、本当に残念に思うのが、展覧会などの殆どの図録が、表具の部分を割愛していることなんですよね。本紙のみが掲載され、表具には美術的な価値がないと思われているんですよね」。それは本紙を引き立て、自らも輝きを放つ表具。表具師も表現者であるべきだと考える飯尾さんの仕事は、書画の可能性を無限に広げてくれる。
「横山大観が存命の頃、一人の表具屋さんがいたのですが、その表具屋さんは、大観が書く時の屏風や下地の本紙など、すべてを調達していたそうです。もし、その人がいなければ大観の作品は、これほど世から評価されていなかったかも知れませんよね。ですから、そんな素晴しい表具師がいれば、日本画家は本当に仕事がやりやすくなると思います」。表具を得意の音楽に例え、華やかな作品にはメジャーコードのような表装を、落ち着いた作品にはマイナーコードのような表装を仕立てるという飯尾さん。表具が本紙を引き立て、本紙が表具を引き立てる。そんな美しい関係が、飯尾さんの手掛けた作品にはある。

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