匠の蔵~words of meister~の放送

薩摩金襴手絵師実雪【絵師 鹿児島】 匠:廣田実雪さん
2011年11月12日(土)オンエア
薩摩焼の絵付けの第一人者である薩摩金襴手絵師の廣田実雪さん。薩摩焼は生活用品に使われる「黒薩摩」と、薩摩藩の献上品として豪華な絵付けをした「白薩摩」に分類されるが、廣田さんは「白薩摩」の中でも金をふんだんに使った「金襴手」という技法で観賞用美術品を製作。その作品はイギリスの「大英博物館」、「九州国立博物館」などにも収蔵されている。「小さい頃から絵が大好きで、始めは沖縄で赤絵の勉強をしていたのですが、大胆な構図が魅力の沖縄の赤絵は、細かい絵が好きな自分の性格には合わず、昭和53年に鹿児島に移住し、この金襴手の技法が駆使された白薩摩と出会ったんですよね。その繊細な仕事がされた作品を一目見て、これは絶対に後世に残していかなくてはならないモノだと感じ、この道を歩み始めたという訳です」。その息を呑む程の繊細な仕事がされた「白薩摩」の絵皿は、どんな美辞麗句を並び立てても表現できない圧倒的な美しさで観る者の心に迫ってくる。「当時は土産物の白薩摩しか売れない時代でしたが、良いモノは必ず残るという信念を貫き、貝殻に細かい絵を描く練習を重ね技術を磨いてきました。製作中は人ではなく、まさに自分との戦いなんですよね。完成した時は、まあ何とか良く出来たなとは思うんですが、数日経つと課題が出てきます。ですから、この世界はモグラ叩きみたいに、一生自らの目指す理想に向かって、モグラを叩いて回っているようなモノなんです。もちろん、製作中は自分の作品は世界一だと思って自信を持って作っています。ですから、製作中は自分が作品の上に立って作りますが、完成した時点で作品より自分が下になってしまうんですよね。作品に教えられるというか、ここはもう少し、こうじゃないのと言われているように受け止めていく訳です。もしかすると、そのように自分が必死で挑み続け、駄目だ駄目だとやっている分だけ、第三者は評価して下さるのかも知れないですよね」。「最高傑作は?」と問われ、「次の作品さ」と答えた、かのチャールズ・チャップリンがそうであったように、廣田さんもまた、ネクストワンを目指し、遥かなる高みを目指している。「白薩摩の技術を受け継ぐということは、その時代、時代の感覚に合ったモノを作っていくことだと思うんですよね。例えば、音楽をやっている人が、昔の人たちの作品をコピーしていますよね。しかし、それでは、やはりその時代の本物には勝てないと思うんです。ですから、今は今として現代の感覚でモノを作っていく。そして、月日が過ぎて、同じように未来の人たちが今の時代の作品を凄いと感じ、この技術を受け継ぎ進化させていくのではないのかと思っています。ですから、昔は昔で、その当時の人たちは、おそらく現代のモノを作ってきたんですよね」。越える、越えないではない。過去に固執せず、時代、時代でアグレッシブにやって行く。いつの時代も歴史とは、そうやって次の世代に紡がれていく。

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