匠の蔵~words of meister~の放送

平戸焼 平戸茂右ヱ門窯  [長崎 平戸焼] 匠:辻田正美さん
2007年10月27日(土)オンエア
長崎県平戸には、朝鮮の流れを汲む「高麗窯」と「茂右ヱ門窯」という歴史的な二つの窯元があると言う。その一つ、慶長4年の創業以来400年の歴史を持つ窯元「平戸焼 茂右ヱ門窯」を主宰する辻田正美さんは、高価な白磁に、平戸焼の特徴である透かし彫りの技術を施し、精密で繊細な美術工芸品を制作している。そんな辻田さんは、「歴史は語る必要はないと思うんです。なぜなら作品を見れば、この平戸焼の作品が歴史あるものだと分かると思います」と、平戸焼の伝統について多くを語ろうとはしない。確かに辻田さんの作品を見れば、その技術が、どれだけ長い歴史を経て熟成されたものなのか想像出来る。そして、その技術は0?辻田さんの作品一つ一つに余す事無く注ぎ込まれている。「私は、基本的に同じ作品を2個作る事はないんです。2個目は要領を掴んでいますから、どうしても手が抜けるでしょう。でも、1個目は『ああでもない』『こうでもない』と一生懸命考えて作りますから、どうしても1個目と2個目では、手の入り方が違ってきますよね」。普通、要領が分かっていたら、1個目より2個目の方が上手く出来ると考えそうなものだが、辻田さんは、「えてして2個目は失敗します」と言い切る。「1個目は集中しますからね。そして、2個下さいと言われた時に、その2個目が出来ないんですよ。だから、作家さんの作品を買う時は、『1個目を買え』と昔から言われているんです」。同じ形の作品で、より良い方が存在する時、辻田さんにとって劣っている方は失敗作になる。それが、それだけを普通に見たら、失敗作とは分からないような逸品であっても。そして、その姿勢は、体験教室を開く時も変わらない。「平戸焼の普及活動の為に、体験教室を開いているんですが、今年の始めに東京から高校生が来たんです。そこで、おしゃべりを止めない子供達に真剣に怒ったんですよね。一日楽しく体験して、じゃあ『さようなら』ではなく、真剣にやるなら真剣にやる。私はそれが体験だと思っていますので」。辻田さんが伝えたいのは作り方ではない。作る想いや、そのストイックさなのだろう。ちなみに辻田さんは、「作品の価値を付けるのはお客様」と、自分の作品に値段を付けないそうだ。「先日、10万円程だと思う作品を依頼者に送ったら、その10倍の値段を送って来た人がいたんです。もちろん、『そんな作品じゃありませんよ』と、残りの金額はお返ししました。その逆に依頼された作品を送っても、お金を送ってこない方もいます。でも、作品が送り返されてきたらショックですけど、そうではないって事は、自分の作品が生かされているって事ですからね」。

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