匠の蔵~words of meister~の放送

工房 島変木【木工芸家 沖縄】 匠:屋宜政廣さん
2015年03月14日(土)オンエア
沖縄で育った木を使用し、家具やインテリア小物などを製作する『工房 島変木』の屋宜政廣さん。木材の個性を見極めながら、その曲り具合や性質を利用して製作される作品からは、温かな沖縄の風土を感じることができる。
「島変木っていうちょっと変わった屋号は、沖縄を表現したいという想いで、唐変木の“唐”の字を“島”に変えて名付けたんだよね。よく居酒屋さんと間違われて困っているけど」。そう笑う屋宜さんは20歳まで油絵を描いていたそうだが、いつしか2次元の世界より3次元の世界に興味をもつようになり、木の看板を製作する仕事に従事。そこで木の魅力に惹かれていったという。
「プラスチックなどは経年変化によって劣化するだけだけど、木は経年変化によって味わいが生まれるからね。木の看板を製作する中で、そんな魅力に惹かれて指物(釘などの接合道具を使わず、木と木を組み合わせて作る技法)を勉強して、家具やインテリア小物の製作を始めたんだけど、気が付けば、それから25年もの年月が経ってしまったよ」。そんな屋宜さんは木の魅力を人間に一番近い素材だからと分析する。
「人間の水分量は60〜70%といわれているけど、木も全く同じ水分量なんだよ。ガラスや陶器は人によって好き嫌いがあるという話を聞くけど、木を嫌いという人に出会ったことはないからね。そんな人間と一番近い素材だというところが、僕は木の魅力の本質だと思うんだよ」。屋宜さんが素材として使う木はリュウキュウマツを始め、センダン、タブ、アカギ、モクマオウ、イジュ、クロキなど様々。それらで製作する作品には共通のテーマがあるという。
「丸です。僕の作品は全体的に丸いんだよ。もともと僕は玩具作家になりたかったんだけど、丸って人に優しくて、触っても気持ちいいじゃない。だから僕の作品を見た人は、必ず触ってしまうんだよ。それも表だけじゃなく、裏まで知らず知らずの内に触ってるんだよ。裏は表に比べて何割か手を抜く傾向にあるんだけど、僕の作品はそのようにお客さんが裏まで手を回すから、興覚めさせないように、裏も表もどこを触っても気持ちいいように、きっちり仕上げてるんだよね。目標は赤ちゃんのお尻。触って赤ちゃんのお尻を目指しているんだよ」。例えばフォルムを追求したシャープな椅子などは長く座ることができず、それは家具ではなくオブジェだという屋宜さん。丸をテーマに人の気持ち良さを追求し、そんな人が長く座っていたい、長く使いたいと思わせる屋宜さんの作品は、素材となる木への優しさも溢れていた。
「例えば50年生きた木を切ってテーブルセットを作りました。それを3代ぐらい使ってもらったら、その間、木を切らなくてすむどころか木が育つよね。長い年月を生きてきた木を僕らは使う訳だから、20年生きた木は40年使えるように、50年生きた木は100年使えるように作ってあげないと。その為に僕たち職人は1ミリの世界でも妥協せず、きっちりモノを作らないと木に対して申し訳ないと思うんだよね」。そうして木への畏敬の念を忘れずに作品を製作する屋宜さんだが、意外にも木に作らされているという感覚はないという。
「よく木に作らされているっていう言葉を聞くけど、それは嘘だよ。僕は25年間、あ〜でもない、こうでもないと本当に木と格闘をしてきたんだよね。力一杯、木とブツかってきた。でも最近は何故かフワっと仕事ができるようになったんだよね。木を優しく触れるようになったんだよ。それが木に作らされているっていう表現に近いのかも知れないけど、それはこれまで木と格闘してきたからこそ、そうなったんだと思うんだよね」。言葉で遊ばず、今もなおさらなる技術の向上を目指し、真摯に木と向き合い続ける屋宜さんは、「いい職人ほど貧乏なんだよ」と笑う。
「楽しみたいから仕事をしているんじゃなくって、楽しいから仕事をしているんだよね。だから妥協してしまうと楽しくなくなっちゃうじゃない。でも、そうやって最後の最後まで手を加えていると、お金にならないから困っちゃうんだよ」。いずれは日本国内のみならず、ヨーロッパでも個展を開催したいと夢を語る屋宜さん。その座右の銘は自身の生き様そのものといえる『情熱』という言葉だった。

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