宮崎市波島のソウルフードとして愛されている粉物料理『にくてん』の専門店『にくてんの老舗かわさき』の2代目、井上孝恵さん。お好み焼きのルーツといわれる『にくてん』は、小麦粉を水で溶き、薄く焼いた生地の上にキャベツ、天かす、蒲鉾、豚肉などを重ねて焼いたモノ。沖縄出身者が多いという共通点をもつ神戸市長田区から波島に伝わり、手軽に食べられる子どものおやつとしても親しまれてきたという。「この店は先代のお婆ちゃんが83歳になるまで半世紀近く一人で営んでいたのですが、2002年に高齢のため店を閉めることになったんですよね。私自身、子どもの頃からお婆ちゃんの『にくてん』が大好きでしたので、もう食べられなくなるのは寂しいと思い、店の名前と味を受け継ぎました」。以来、材料や作り方を一切変えずに、お婆ちゃんの味を守ってきたという井上さん。10年以上経った現在も、その基本の味は変わってないという。「この味が大好きで、自分たちが食べたくて、お婆ちゃんから受け継いだわけですから、常連客から『変わらないね』と言われるのが一番うれしいですね」。そんな『にくてん』の魅力は、魚粉を加えるなどの創意工夫が凝らされた秘伝のソースにあるという。「お客さんからも『病みつきになる』『ソースが違う』と言われるほど、ソースの味には絶対の自信をもっています。ソースを食べて欲しいから『にくてん』があると言っても過言ではありません」。そうして秘伝のソースとともに守られてきた昔ながらの味にはブームなど関係ない。「私の中で『にくてん』をブームにしたくないという想いが強いんですよね。B級グルメイベントの出店のお話なども頂くのですがお断りしています。なぜなら急激に火がつくと消えるのも早いですからね。地元の人から長く愛され続ける味として、普通に口コミで広がっていければイイな〜と思っています」。現在は宮崎市に2店舗を残すのみとなった『にくてん』の専門店として、昔ながらの味にこだわる井上さんにはブームなど関係ない。なぜなら『にくてん』は、ブームとは関係なく長い年月をかけて波島のソウルフードとして愛されてきたモノだから。その秘伝のソースとともに、人が懐かしいと思う気持ちもスパイスとなっている『にくてん』に、やはりブームは似合わない。
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