匠の蔵~words of meister~の放送

木工芸作家【木工芸 熊本】 匠:甲斐武さん
2012年03月17日(土)オンエア
美術的要素の高い家具や茶道具などの木工芸を得意とする木工芸作家、甲斐武さん。甲斐さんは木を組み合わせて作る指物や、薄くした板を丸めて作る曲物、そして、1本の木を刳りぬいて作る刳物といった技術を駆使して、家具や茶道具、お椀などの日用雑器までを製作、数々の木工展での受賞歴を誇る。「もともとモノ作りに興味があり、最初は日曜大工でテーブルなどの家具を自分で作っていたのですが、木工の世界はやればやるほど奥深く、いつの間にかのめり込んでしまい、職業と呼べるようになるまで独学で勉強をしてきました。まずは伝統的な技法を勉強したのですが、それは伝統を無視した作品は偽物だという意識が自分の中にあるためです。伝統を尊重しながら新しい作品を作る。そうして基本的なテーマを決めてから毎回、作品を製作するのですが、すべての作品の根底にあるのは、手間を惜しまないということです」。例えば弁当箱の1段を作るのに3日の時間をかける。そうして完成した甲斐さんの作品は、どれも洗練されたデザインと木目の美しさが際立っている。「お椀などは機械で簡単に削れますが、私の場合は、ある程度のところまで削った後は手彫りで仕上げます。それは、手彫り独特の少しユルイ感じが、逆に効果的なデザインになるからです。しかし、それを計算づくでやり過ぎてしまうと逆にあざとい感じが作品に表れてしまうので、そのあたりのセンスとバランス感覚は大切ですよね。大人の世界というか、お金の匂いのする作品は面白くないですからね。言葉で表すならば、よか塩梅といったところでしょうか」。俗にいう売れ線は意識するが、それを決して悟られないように、甲斐さんが常に心に留め置く言葉、よか塩梅。そのほのかに香るような、さり気ない美しさというモノは、やはり日本人の美意識にマッチする。「センスは経験の中で磨いていくしかありませんよね。私の場合は、他人の作品や面白そうな雑誌を見る。そして、個展なども大切な場として捉え、お客様の意見や話を聞きながらセンスを磨いています」。そんな甲斐さんの手元にある木材は現在、約30種類。岐阜県や東京を中心に日本全国を歩き、美しい波線が入ったモノや丸がひしめき合ったモノなど、珍しい木材や変わった材料を探し求めるという。「とにかく木が大好きなんですよね。ですからイイ材料が手に入れば本当に興奮します」。そんな木への愛情がたっぷりと込められた甲斐さんの作品たち。それはデザインと木目の美しさのみならず、その手触りまでもが芸術的だった。

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