毎年11月、勇壮な14台の曳き山が、威勢良く街を練り歩く、佐賀は唐津の伝統的な祭り「唐津くんち」。唐津の街の中心にある「青龍工房」の画家、福本哲夫さんは、その「唐津くんち」の主役である14台の曳き山を中心に絵を描いている事で知られている。「唐津っ子は、皆4〜5歳から山笠を描くし、学校の授業でもやりましたよ。一年中、人が集まれば山笠の話になるし、絵の中でも山笠の絵だけに魅力を感じるんですよね。唐津っ子のDNAに組み込まれてるって感じですかね」。そんな福本さんの作品は、下地を黒く塗り、水で薄めた白絵の具をペン先にのせ、点描画の技法で、迫力ある曳き山が描かれている。「見ただけでイメージが決まってしまう色鮮やかなカラーではなくって、見た人に色や質感を想像する余裕を与える白黒にこだわりたいんですよね。色黒は華やかさはないけど、飽きないと思うんです」。そして、福本さんは曳き山を描く上で、もう一つのこだわりがあった。「山笠が表に出て大量の光を上から浴びたところ…、その一つの光で、陰影を付けていくのがイイと思うんです。これが、展示場など、右からも左からも上からも下からも、色んな所からスポットライトが照らされているのでは、影の部分がよく分からないようになるので面白くないと思うんですよ。外に出て上からのおてんとうさんの光りで色を表現するのが、いい作品が出来るのかな〜と思って、その写真選びには、こだわっていますね」。唐津の街並の中をお囃子に合わせて、威勢良く練り歩くためにある曳き山。そのあるがままの姿を描写してこそ、いい作品が出来るというのは、当たり前かも知れない。そのモノが何のために生まれてきたのかを考えればそのモノの本当の魅力の在りかが分かる。
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