沖縄の伝統芸能、琉球舞踊の女踊りで踊り手たちが被る花笠を製作する新垣孝さん。鮮やかな紅型の衣装、それに負けない華やかさを持った花笠には、沖縄の象徴である、赤い花と青い海、そして青い空があしらわれている。「10年以上前…仕事の定年を期に花笠を作っていた父から技術を受け継ぎ、花笠を製作するようになりました。土産用の花笠を作る人は多いのですが、父のように踊り手に使ってもらう花笠を作る人は少なくなってきましたからね」。アメリカ軍の沖縄進駐を描いた1956年の映画「八月十五夜の茶屋」の琉球舞踊のシーンで使われた花笠を、役者であった新垣さんの父が製作。当時の役者は、全ての小道具を製作していたそうで、以来、花笠製作に専念したその父を越えることが、新垣さんの目標だと言う。「親父が作った花笠を張り替えてくれっていう方が、いまだにいますからね。花笠の綺麗さは、いかに真円に近づけることが出来るかで決まります。親父の作った花笠は、いまでも綺麗な真円をしていますかれね。この綺麗さは、琉球舞踊のコンテストなどでは花笠など衣装の良し悪しも点数に反映されますから、作る方も真剣に追求しています」。そんな新垣さんの花笠は、観光用の針金とは違い竹で骨組みを作り、その上に木綿や絹などの布を張って仕上げるなど、ただ綺麗さを追求するだけではなく、使う人のことも考えられている。「花笠を少しでも軽くするために針金ではなく竹を使って製作しています。さらに、その竹も薄く削っていくのですが、あまり薄くし過ぎても、装飾品などの重みで弱くなってしまうので、そのバランスが難しいですよね。いまは700グラムくらいの花笠を作っているのですが、踊り手に『他の花笠はもっと重い』と言われましってね。じゃあ、これでイイのかなと思ってやっています」。長時間踊ることも多い琉球舞踊の世界では、たった数グラムの重さで、踊り手の首への負担が違ってくると言う。ただ美しいだけでは駄目。そのデザイン性と機能性の、最大公約数を追及して、美しく...踊り手にも優しい花笠を製作する新垣さん。そんな新垣さんのような人物によって琉球舞踊の伝統は守られている。
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