大分の人気温泉地・湯布院で、地元の素材を使い、木の優しさや温もりが伝わってくる皿や椀、箸などの木工製品を製作する工房「アトリエときデザイン研究所」を主宰する時松辰夫さん。「木と人間は、地球の成り立ちを考えると、親類のようなものです。その仲間を決して粗末には出来ません。どんな小さな木の欠片でも、箸や箸置きを作る事が出来るので、木は捨てるところが無いんです」と、時松さんは間伐材や端材を使い、生活者の目線で、機能美が追求された暮らしのトーンを上げる作品を生み出している。「木材を使い、生活用具を作るという時の基本は、人間の手の平に馴染む触覚が大切になります。触覚に不快感を与えず、不愉快ではなというところから出発して、これよりこれが美しい、これよりこれが楽しい、これよりこれが豊かであるという風に捉えていく訳です。その過程を間違わなければ、製品はちゃんと生活の中に収まるハズです」。何でもモノを作る時には、出発点があって順番がある。その基本を忘れずに作られる時松さんの作品の中心には、常に人の暮らしがある。「器というのは、これ一つでは何も完結しません。食べ物が入って、美しく、美味しく、それを演出して楽しむ、人の暮らしが何より対象になる訳です。どこで誰が使ってくれるのかという事を考え、生活社会にちゃんと目線を置いて作れば、職業上の安心感もありますからね。よく後継者がいなくなると言うのは、やはり生活社会とちゃんと繋がっていないからだと思うんです。私の製作姿勢は、自分が作りたいものを生活社会に重ねていくという事です。そして、その為には技術が必要になりますが、それは決して、腕自慢の技術ではありません」。暮らしの中にある製品やサービスは、社会と関わらなければ意味が無い。時松さんは、そんな社会の中でいかに製品が輝くかを想像しながら、日々の仕事をしている。そんな技術を見せる為の技術ではなく、生活社会に育まれた技術で生み出される製品やサービスは、さらに洗練されたものへと進化する。「生活社会との輪を求めていく事によって、その製品の美しさが確かに進化していく、発展して行きます。そうすれば、自然に皆が喜んでくれるものが生まれてきますからね」。そんな時松さんのもとには、地元だけではなく東京などからも木工技術を習いに人が訪れる。「今後は誰にでも作れるように、この技術を広めていきたいと思っています。地元で農業をしている人などが、副業として木工製品を作る事が出来れば、多くの人たちの暮らしが、もっと豊かになりますからね」。
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