熊本で、古い蔵や民家など、古い建物を新たなスタイルで現代に再生させる店舗設計者、「サンワ工務店」の山野潤一さん。繁盛店舗仕掛け人とも呼ばれる山野さんは、熊本の上の浦通りで、70軒以上もの店舗を手掛けている。そんな山野さんは、古いモノを再生する事の本当の意味を教えてくれた。「古くて朽ち果てて、隣のビルによっかかったような木造でも4つの柱でしっかり建っている…。そんな建物をしっかり起こして、雨が漏らなくしたり、ちょっと人間が手助けすると、それからは、その建物が、何十年も中に入った人を助けてくれるんです。壊すつもりの家だから、家主さんも安くても貸してくれる。でも、駐車場にするよりも効率がいいという事で、皆がいいですよね。家主も借りる人も皆がいいようなシステムを作ると、色んな他所からも入って来やすい環境になるんです。古いものを誰かがお金を出してでも助けておくと、古いものが、また人を守ってくれるんで、そういう本当の意味のリサイクルみたいなものは、古いものの方が醍醐味があるような気もします」。山野さんの仕事は、壊れた所を直す…という事だけではない。新しいデザインやイメージまでも吹き込んで、昔以上に人が集まる空間を生み出す。そんな山野さんは、お施主さんに完成したお店を引き渡す前に、必ずする事があるそうだ。それは、モノを大事する心を忘れない為の、山野さんの優しさが込められたものだった。「私は商店建築が主な仕事なんですけど、店が出来上がって最後にペンキを塗ったりする時は、必ずお施主さんにも一緒にやって貰うんですよ。家具も何も入ってない所で、僕と一緒に床にへばりついて真っ黒になってね。そうしたら必ず、そのお施主さんは、従業員にも床を大事にする事も教えるし、大変な思いでこれが出来上がった事も伝えてくれるし。結局、モノを大事にするという事は、その店が長生きするっていう事だと思うんですよね。ハードの部分だけじゃ、それは出来ていかないんですよね。ハードウェアだけじゃ。逆にハートウェアの方が大事で、経営者自らがモノの価値が分かるうになって欲しいという事です。だから、僕達が一生懸命に店を作るのを見て、あんなにやって貰ったから、僕が食事に行った時に、床が汚れとったら怒られるバイと思ってくれると成功なんです」。そんなハート=心を大事にする山野さんは、その仕事を特別難しい事だとは思っていない。「店を作ったら僕達の仕事は終わりで、その人達はその日から、何十年も営業せんといかんから、それから相当な苦労が始まるんですよね。僕達はそれまでだから簡単なんですよね。だから、それまでのお手伝いは、出来る限りの事をしていくという事です。そして、それをしていかないと長く続かないんですよ」。引き渡したらそれで終わり。確かにそうなのだが、一緒に作った店と、その気持ちは、それから何十年も引き継がれていく。山野さんはデザインやイメージだけでなく、気持ちや心も店の主人に吹き込んでいた。
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