昔ながらの自然循環農法である『草木堆肥』で土作りを行なう『佐藤自然農園』の代表、佐藤茂行さん。『金の土』と呼ばれるミネラルバランスの優れた土で、味、香り、糖度、食感に優れた栄養価の高い野菜を栽培する。
「以前は銀行員として企業の再建に関わっていたのですが、思うところがあり54歳で銀行を退職。それから本格的に農業の世界へと足を踏み入れました。その後、江戸時代の文献を調べるなど、小さい頃に食べた懐かしい野菜の味を追い求め、『草木堆肥』にたどりついたという訳です」。佐藤さんはその『草木堆肥』による土で育てた野菜を『むかし野菜』と名付け、現在は季節ごとに約20〜30種類を栽培。見た目が重視される市場を通さず、直接、消費者に届ける方法で野菜を販売しているという。
「野菜の美味しさを分解すると、味と香りと食感、そして、旨味に分かれますが、この旨味を出すことが大事なんですよ。食塩と岩塩を食べ比べると、食塩は塩辛いのですが、岩塩はほんのり甘いですよね。それは岩塩に旨味の主成分となる海のミネラルがたっぷりと入っているからなんですよ。『草木堆肥』に使う木は、地中深くまで根を張って豊富なミネラルを吸収します。それを破砕して堆肥として使いますので、『草木堆肥』による土で育てられた野菜には、ミネラルが凝縮されているという訳です。ですから『花咲じいさん』という昔話がありますよね。あの話でおじいさんは草木を焼いた『草木灰』を撒いて花を咲かせますが、あれは、あながち嘘ではないのかも知れないですよね。要するにミネラルを桜の木に補給している訳ですからね」。そんな先人の知恵である『草木堆肥』は、とても手間暇が必要とされ、現在は誰も手を出さないという。しかし、先人たちが惜しまなかったその手間暇は、確実に手をかけただけのモノを返してくれる。
「腹立たしいのが、いま日本の有機野菜をヨーロッパに持っていくと、『オーガニック』という名前で売れないんですよね。つまり基準が曖昧で認められてないんですよ。しかも、さらに腹立たしいのが、そのヨーロッパの人たちが『オーガニック』として売っている野菜は、確か150年くらい前の日本の野菜を勉強して育てたモノなんですよ。そんな日本人の英知の結晶である『草木堆肥』を、日本人自身が捨ててしまったという現実は、とても悲しいことですよね。ですから、いまは一人でも多く日本人としてのプライドを持って『草木堆肥』を使う農業者の仲間を増やしたいと願っています」。そんな佐藤さんは、『草木堆肥』による土作りを行なう一方、露地栽培へのこだわりも持っている。
「いま農園には20坪の育苗ハウスが一棟だけありますが、他はすべて露地栽培です。 なぜなら露地野菜は自然に適合しようと懸命に生きようするために、糖質とビタミンの含有量に決定的な差が生まれるからなんですよね。そこにミネラルが加わることで、必然的に味も香りも食感も優れた野菜に育つという訳です」。その『むかし野菜』は、野菜嫌いの子どもも喜んで食べ、さらに体を元気にする魔法のような力を持っている。その日本人の誇りを胸に育てられた『佐藤自然農園』の野菜は、『良薬口に苦し』という諺を覆す力を持っていた。
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