匠の蔵~words of meister~の放送

工房杉彫【木彫刻 佐賀】 匠:小森恵雲さん
2012年10月27日(土)オンエア
佐賀県の重要無形民族文化財に指定されている『面浮立』で、『かけうち』と呼ばれる踊り手たちが被る鬼面『浮立面』などの木彫り作品を制作する『工房杉彫』の4代目、小森恵雲さん。「面浮立は、笛、鉦、太鼓などの囃子に合わせて踊る佐賀県南西部の伝統芸能で、五穀豊穣、雨乞祈願、奉納神事などの祭典や特別な行事になくてはならないモノなんですよ。初代と2代目が宮大工の仕事の傍ら、その面浮立の浮立面などを彫っていた為、私も4代目を継いだ時に浮立面の制作を始めたという訳です」。そんな小森さんが4代目を継承して40年余り。しかし、最初は現在の仕事を受け継ぐことに迷いや葛藤があったという。「高校生の頃に父の仕事を手伝っていたのですが、その魅力が分からなかったんですよね。そんな時に富士山に登る機会があって、その山頂で御来光に照らされた富士山の影を見て、自然の偉大さと自分の存在の小ささに気付いたんです。そして、木という自然を相手にしながら、自分の作品が後世に残る父の仕事はなんて素晴しいんだと感じ、今に至るという訳です」。そうして後世に残る作品を残せる仕事に就ける自らの環境に感謝し、日々、木と向き合い続ける小森さん。しかし、先人たちの作品を今に受け継ぐ『浮立面』の制作は、伝統工芸品ならではの難しさがあるという。「浮立面は伝統工芸品なので、創作とは違い自己流を入れてはならないんですよ。自己流を入れてしまうと代が変わる度に作品が変わってしまいますよね。ですからデザイン的におかしい部分も残していく、それが大事だと思っています」。一方で、小森さんは自らのデザイン力の限界に挑んだ『干支人形』や、愛らしい姿をした『やすらぎ人形』なども木彫りで制作。2002年に佐賀県マイスターに認定される。「私がマイスターに選ばれた理由は、佐賀県を代表して、この面浮立の伝統を絶やさないように守りなさいということだと思っています。ですが、需要がないと、仕事がないと、いくら伝統といっても守っていくことができないんですよね。どのような伝統も求められてこそ守られていくモノだと思っていますので、その為には制作する以外にも、佐賀県全体の人が、面浮立は代表的な踊りだよって言えるぐらい名前を売り込んでいくことが大事なんですよ。面浮立は一時的にブームになったこともあるのですが、今は廃れているんですよね。ですから、それを何とか克服していくことが、今の自分に与えられた役目だと思っています」。伝統は守られるモノではなく守っていくモノ。そんな覚悟で生み出される小森さんの作品は、伝統という言葉で飾らずとも見る者の心を惹きつける迫力を纏っている。「私は木の命を頂いて生活をしている訳ですから、自然の大切さ、命の大切さもお客さんに伝えられたならと思っています。心を込めて木を彫り続け、そして、佐賀県の面浮立はコレですと、全国から来られたお客さんに説明していく。佐賀県を代表する伝統芸能ですよと。とにかく、この面浮立という言葉をもっともっと世の中に広めることが私の夢ですね」。

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