匠の蔵~words of meister~の放送

キャラバン 佐賀唐津*和牛ステーキ専門店【ステーキ 佐賀】 匠:河上彰範さん
2014年11月29日(土)オンエア
1979年の創業以来、佐賀の素材にこだわり、地元ならではの味を鉄板焼で提供する『キャラバン 佐賀唐津*和牛ステーキ専門店』のオーナーシェフ、河上彰範さん。30年以上も永きに渡り、唐津市の町の一角で愛されてきた店を父から受け継ぎ、美味しいだけではないサービスで、客の心を魅了し、『ミシュランガイド 福岡・佐賀2014特別版』では、見事、星を獲得する。
「福岡の調理師専門学校を卒業後、『ホテルオークラ福岡』の立ち上げに携わり、料理人の技術が素材に価値を生む世界の基本を学びました。その後、『肉を極めたい』と、東京にあるJAさが直営のレストラン『銀座季楽』で修業し、唐津に帰郷しました。もともと生まれた時から父の跡を継ぎたいという思いがありましたから、その為には、どんな技術や経験が必要なのだろうかと考え、そこに向かって一つひとつを順番にやってきただけなんですよね」。そんな河上さんには、いち料理人から経営者となったことで気づいた大事なことがあるという。
「経営者になってから美味しいの先には、“楽しい”があることを気づかされました。子どもの頃に家族で外食した時の記憶を辿ると、美味しかったからではなく、楽しかったから思い出に残っているんですよね。例えば、亡くなった父や家族と一緒に食べたカニ鍋の思い出。妹と取り合いになったんですが、僕の眼鏡が曇って目の前のカニを妹に取られたんですよ。それを上から取ろうとすると父が『ほらほら鍋の底にまだあるから』と。そんな映像だけではなく、会話の内容までも鮮明に覚えている理由は楽しかったからなんですよ。味の記憶というのは楽しかった記憶と連動して甦るモノですから、我々が提供しなくてはいけないのは、ただ美味しい味だけではなく、そういった楽しくなれる環境など、総合的なサービスなんですよね。僕はプロの料理人ですから、美味しい料理を作ることは当たり前で、逆に言うと美味しい料理しか作れません。でも、経営者はそれだけではダメなんですよ。美味しい料理+素敵な環境など、あらゆるモノを大事にしなくてはならないんですよね」。いくら味がよくても店の雰囲気や従業員のサービスが悪ければ、またその店に行きたいとは思わない。多くのリピーターに支えられているという河上さんの店には、なるほど、いつ来ても客の笑顔が溢れている。
「お客さんがレジでお金を払う時に、以前は『美味しかったよ』と言って下さっていたのが、今は『楽しかったよ』『また来るね』に変わったんですよ。僕はこのやり方をもっともっと進化させて、皆さんが笑顔で帰ってくれる、また店に来たくなる、そんなパワーのある楽しくなれる店を作っていこうと思っています」。そんな本物の“おもてなし”とは何か知る河上さんは、多くの人々の記憶に忘れがたい楽しい思い出を刻んでいた。
「僕は会話の中でシズル感を大事にしているんですよ。シズルとは、まさに肉が焼ける時のジュージューという音のことを指す言葉で、転じて人の五感を刺激する感覚のことをシズル感というのですが、僕は会話の中にも、例えば美味しい肉のイメージや楽しい雰囲気が感じられるような、シズルを織り交ぜるようにしています。また同じような会話のテクニックとしては、僕は未来を予想させる言葉も大事にしています。例えば僕は『またこの店に来て下さい』とは言いません。『またこの街に来て下さい』と言うんですよね。そして、この街の温泉や観光施設などを紹介する。そうすることで、お客さんは未来を予想して、またこの街に来たいと思うし、また来た時の街の楽しい思い出の一つとして、僕の店も記憶に残ると思うんですよ。僕は目の前のお客さんを楽しませることしかできませんが、それが大きな輪となって、徐々に世界に広がっていけば、地元、佐賀のPRにもなると信じて、この道を歩んでいます」。座右の銘に『一騎当千』という勇ましい言葉を掲げ、まさに一騎当千の勢いで、唐津を、そして、佐賀を盛り上げようと歩み続ける河上さん。現在は日本全国のみならず、遠くロシアやシンガポールなどからも客が訪れるというその店には、人を楽しくさせる、熱くさせるエネルギーが溢れていた。

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