およそ400年前、長崎は平戸に渡来した神父から、カステラと共に伝えられたと言われる、平戸の銘菓カスドース。カステラを卵黄にくぐらせた後、さらに糖蜜にくぐらせ、その上にグラニュー糖をかけた南蛮菓子だが、かつては松浦藩の藩領内以外禁制の「お止め菓子」として扱われ、幻の菓子と呼ばれていたそうだ。そのカスドースの味を現代に受け継ぐ菓子屋「湖月堂」は、石畳の美しい平戸の街並みの一角にひっそりとある。店主の佐野屋勇さんは、「私はお菓子も文化だと思うので、製法など手を加えずに、そのまま昔ながらの味を守っています。もちろん進化させる事も大事でしょうけど、昔のままの味を守って行く事も伝統を守る上で大事ではないかなと思っています」と、このカスドースの味を確かな技術で頑なに守り続けている。そんな「湖月堂」のカスドースは、昭和天皇の在位50周年の献上菓子に選ばれるという名誉にも輝いた事があるそうだ。「やはりカスドースは平戸の宝だと思っています。カスドースは10日前後しか日持ちをしないので、流通菓子として厳しい面があるんですが、だからといって、色んなモノを入れて、日持ちするように変えようとは思っていません。販売方法にカスドースの味を合わせるのでは、順序が逆になってしまいますからね」。そんなカスドースは、普通のカステラより密度が濃く、甘さが抑えられているので、見た目程の甘さはないが、やはり抹茶と合わせて食べるのが、正統な食べ方だそうだ。「今、普通の家庭では、抹茶を飲む文化というのは、あまりありませんよね。でも、私はそれでも良いと思っています。やはり抹茶も文化としてありますから、それとマッチングして使って頂ければいいと思っています。何もすべて一般化する必要もないかなと思っていますけど。頑固なんですかね」。頑固ではない、ゆるぎないだけなのだろう。楽しむ人だけが楽しむ、そんな文化があってもいいし、そんな文化にこそ、コクが引き継がれる。そんな佐野屋さんの信条は、「らしく」だそうだ。「子供は子供らしく、スターはスターらしく、そして、お菓子屋はお菓子屋らしくありたいんです。ですから私は、お菓子屋らしく、お菓子とお客に正直に真面目に取り組んで行こうと思っています」。
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