徳川の時代に、伊万里焼の流れを汲みながら、佐賀は鍋島藩の御用窯で生み出された鍋島焼。この鍋島焼が伊万里焼の窯元と一線を画すところは、その厳格なまでの規格の中にあるそうだ。和の様式美を徹底的に追求した、大きさ、デザイン、色使い…。鍋島焼の名窯元「龍仙窯」の市川龍仙さんは、そんな江戸時代に生まれた鍋島焼を、平成の今の時代に再現する「鍋島焼」の伝承者だ。「鍋島の絵そのものが、私の中ですごく良い物だと思っていますので。全てが完成されて崩しようがないんですよね。新しい形というモノに挑戦する事は良いのですけど、それで出来上がったものは、鍋島焼では無くなってしまうんです。鍋島焼の規格を無視してオリジナルのものを作る方が、ちょっと楽をしているような気もするんです」。そして市川さんはこうも言う。「鍋島焼は職人の世界ですから、アーティストにはなりたくないですね」。既製のモノを壊して新しいモノを作るっていうのは、なんだか格好いい。それこそ既製品のように、皆、そんな事を言っている。それでも市川さんは、そんな鍋島焼の規格を守りつつ、少しずつ自分のオリジナリティも発揮しているそうだ。「鍋島焼の規格の中で、ちょっと冒険をしてみるんです。そのちょっとが難しいんですけどね」。そして市川さんは、審美眼を養う為に、絵画や最近のファッションにも目を向けているそうだ。「歩いている時も何をしている時も、美しいと思うものは、いつも頭の中に記憶しています」。そんな市川さんのような人の力によって、鍋島焼の伝統は守られる。「龍仙窯は鍋島焼の窯元なんです。鍋島イコール龍仙ということで…」。
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