匠の蔵~words of meister~の放送

染織工房 シルクトーン【染織工房 福岡】 匠:大野浩邦さん
2015年12月05日(土)オンエア
大相撲の横綱、白鵬や鶴竜を始め、過去には元大関の魁皇などの『化粧まわし』の生地を手掛けてきた博多織職人でありながら、独自の技法によって新たな布を生み出した『染織工房 シルクトーン』の大野浩邦さん。約半世紀に渡り博多織職人として歩み、博多から移り住んだ小倉の地で、織絵の技法を進化させ、絹糸を不規則に重ねた『ランダム布』を開発。2015年1月に特許を取得する。
「もともと博多織から発展した新しい織り方を、独自に研究していたのですが、その中で『ランダム布』を開発する以前に、『織絵』という糸のアートを完成させたんですよ。これは縦糸と横糸を直角に織り込む従来の技法を変化させ、波を描いたように横糸を仕込む技法から生まれた布で、大気の流れなどを表現した『織絵』は、タペストリーや額装として人気を得ています。しかし、これはあくまでも博多織の亜流でしかありませんでしたので、さらに進化させたオリジナルの布をつくろうと。そうして生まれたのが『ランダム布』という訳です」。大野さんは頭の中でイメージを描きながら、手織りで縦糸と横糸をランダム状に重ねて『ランダム布』を製作。そうして生まれた『ランダム布』は、蚕の繭のような柔らかな風合いをもち、糸の材質や色、サイズや厚み(透かし効果)を変えることで、ストールやマフラー、ドレス生地、カーテンなど様々な商品に活用できるという。
「この『ランダム布』の完成を経て、工房の屋号も明治時代から受け継いできた『大野博多織』から『染織工房 シルクトーン』と改めました。いま私は70歳を超えましたが、これから始まる新たな挑戦にワクワクしているんですよ。本当に寝る時間がもったいないと思えるほど楽しくて、毎日作業に没頭しています」。工房には『ランダム布』の技法で糸を絵具のように自由自在に操り、桜を描いたという大作『桜花爛漫・道原桜』が展示されているのだが、桜そのモノの美しさのみならず、その周囲を流れる柔らかな大気まで感じられる動きの美しさに圧倒される。
「例えば何か新しいことをしようと思った時に、博多織の帯の生地でハンドバッグを作ったり、チョッキを作ったりすることはできたでしょう。しかし私は、ただ博多織を帯ではない何かに変えるのではなく、織物のもとから変えたいと思ったんですよ。博多織は受け継いだモノですからモノ真似じゃないですか。伝統を受け継ぐということは、先人たちの技を真似るということですからね。しかし今から750年前、最初に博多織を作った人は発明者ですよね。また絵画や習字の世界で最初に顔料や絵具、墨を生み出した人も皆、発明者ですよね。私もその発明者の一人、伝統の元祖になりたかったんですよ。しかしそれができたのは、私が博多織の伝統を受け継いできたからだと思います。伝統も何もないところから革新は起きないと思いますから」。大野さんは博多織職人として半世紀、布を極めたからこそ『ランダム布』を創造することができたという。
「モノづくりに必要なのは、『創造力と粘りと少しの勇気』です。こんなことをしたら恥ずかしいとか勇気がいるんですよ。人とは違う変わったことをするのは。ですからモノづくりに必要なことは、まず基本の技術を習得した上で創造すること。そして、その創造したモノを10年、20年と続ける粘りと、続ける勇気ですよね」。現在は次男が博多織を手掛けているのだが、将来はその次男が織った『化粧まわし』の生地に『ランダム布』の技法で模様を描く他、「田舎の発明のおっちゃんで終わりたくない」と、パリコレなどの舞台で、一流のデザイナーに『ランダム布』を使ってもらうのが夢だという大野さん。実際に水面下では様々なプロジェクトが進行中だと目を細める染織の世界の開拓者、大野さんの夢の先で、どのような『ランダム布』の伝統が紡がれていくのか楽しみだ。

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