緑溢れる3千坪もの広大な敷地に、大小様々な古民家を移築して造られた石垣島随一の老舗郷土料理店「八重山郷土・海鮮料理 舟蔵の里」の主人、元村賢さん。訪れた人に「八重山の文化に触れて欲しい」と、八重山の古き良き原風景を今に伝える細かな演出が施された空間で、伝統料理を提供する。そんな元村さんは、27歳まで熊本の実家が営む料理旅館の別邸を任されていたが、周辺環境の変化から新たな土地を求め日本全国を行脚。石垣島に一目惚れし、この土地に移り住んだという。「実家では鰻を提供していたのですが、鰻は夏というイメージがありますよね。そこで一年中気候が温暖な南の島を選び、最初は10席だけの鰻屋としてスタートしました。そして、島内のどこでも出前を行なうという営業形態が大当たりして繁盛していたのですが、宮古島にあった大手の養鰻場が撤退したのと同時に、沖縄の日本復帰後、石垣島は観光の島として栄えると予測し、郷土料理店を開店しました」。先見の明を持ち郷土料理店を手がける為に動き出した元村さん。そのコンセプトは郷土料理店は、かくあるべきとも言える明快なものだった。「人は何の為に旅をするのかと考えた時に、やはり異体験ですよね。人は普段の生活では味わえない体験をする為に旅をする訳ですから、郷土料理店は、その地域にある文化を掘り起こすことから始めないといけません。そうすると、その文化の最たるものは建物ですから、うちの施設はみんな木造赤瓦の古民家を移築して作っています。郷土の家で、郷土の器で、郷土の素材を、郷土の音楽を聞きながらという風に、徹底しようということで作ってきたのが、『舟蔵の里』なんですよ。ですから私は、従業員にもなるべくお客さんと接する時以外は、自分たちの八重山の言葉で話すように言っています。そうすると、お客さんも『あ〜琉球に来てるな〜八重山に来てるな〜』という雰囲気に浸れるますからね。八重山の文化の縁の一端でも感じて帰って貰おうと思い、今も展開しています」。一昨年に沖縄県から観光功労賞を授与されたという元村さん。その歩みはまだまだ止まることはない。「現在66歳ですが、人間『もうこの位でイイ』と満足した時点で、衰退が始まると思うんですよ。ただ広げることだけではなく、余分な部分を削ぎ落とすことも前向きなことですよね。よく県外で展開してはどうかという話は頂くのですが、郷土料理というは、その土地の自然、空気、そして、人との触れあいの中で味わうモノだと思っていますから、儲ける為に安易に広げることなく、『食べたければ石垣島に来て下さい』という姿勢は貫き通すつもりです」。料理店でありながら、元村さんが演出するのは口美味しい料理だけではない。味はもちろん、見た目、匂い、音、そして、肌触り、元村さんは石垣島を訪れた人の五感のすべてを満足させるエンターテイナーだった。
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