誰にでも使いやすい工夫を凝らしたモノやサービスを意味する、ユニバーサル・デザイン(UD)を取り入れた陶器を制作する「三池焼」の主人・中村秀昭さん。1960年代にアメリカで提唱され、世界各地に広まったUDだが、現在熊本では、この「三池焼」を含め10の窯元が中心となり、UDを取り入れた陶器の商品開発を行っている。「今の陶器は健康な成人を想定して作られているので、子供や老人、障害者が使う時には使い辛いんですよ」と中村さん達は、スプーンですくいやすいように縁が内側に傾いた皿、片手で楽に注げる急須、滑り止めの付いたカップなどを制作しているそうだ。「平成13年に組合が発足したのですが、最初UDと言われても皆キョトンという感じで、何がUDなのか分かりませんでした」と笑う中村さん達は、高齢者の施設に見学に行ったり、身近な高齢者の食事姿を観察したりしながら、試行錯誤の末、新しいデザインを生み出している。「勿論、色々な方に意見を求めますが、声に出る意見と、声に出ない意見とがあるんですよね。ですから、私達は声に出ない意見をよく観察する事によってカバーしています。それには、自分が出来る事が当たり前だと思っていては駄目なんです。人は自分とは違うという事を認識しなくてはいけません」。そんな中村さんは、UDを始めた事によって新たな陶器の可能性が広がったと言う。「焼物屋は頑固な所があるので、作りたいモノしか作らないんですよね。でも世の中は、どんどん変わっていますよね。器も当然、変わって行く必要があると思うんです。器はあくまでも人が使う道具ですからね。作る方も、自分の個性を大事にしたいとか、こだわりがあるんですけど、そういう人たちの事を考えると、焼物屋のこだわりは、そんなに大した事じゃないですよね。弱い立場の人の事も思いやる気持ちさえあれば、自然に世の中もユニバーサル化されて行くのかなと思うんです」。弱い立場の人への思いやりの前には、陶芸家の頑固さなんか小さなもんだと言い切れる。そんな匠の想いからは、本当の頑固さが伺える。結局、UDという名前で呼ぶと、専門の何かのように聞こえるが、それは、ただ用の美を究極にまで追求した結果の形であって、他の陶器と何ら変わらぬモノなのだろう。「今は新しい作品を作っても圧倒的に没になる方が多いんですよ。まだまだ始まったばかりですからね。これからが楽しみです」。
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