匠の蔵~words of meister~の放送

花工房 おかだ【生花店 福岡】 匠:岡田哲哉さん
2015年12月12日(土)オンエア
小倉の繁華街の一角で生花店『花工房 おかだ』を営むフラワーデザイナー、岡田哲哉さん。花の美しさを最大限に引き出した、独創性溢れる表現力が高く評価されている岡田さんは、2010年に『九州花卉装飾選手権』で最高賞である内閣総理大臣賞を受賞。また『福岡県フラワーデザイン品評会』で3連覇を果たすなど、数々のフラワーコンテストでの受賞歴を誇る。
「小倉の花屋でアルバイトをしていた学生時代、友人の誕生日に初めて花束をつくってプレゼントしたのですが、その友人がすごく喜んでくれたんですよ。それがとても嬉しくて。その時の感動、喜びが今でも忘れられないんですよね。そんな人を笑顔にする力をもつ花の魅力に惹かれたというのか。それが私の仕事の原点なのかも知れませんね」。当時は大学で建築を専攻し、建築士を目指していたという岡田さんだが、以来、フラワーデザイナーとして歩むことを決意。花の美しさの原点を知りたいと『華道家元池坊』に入門する。
「その後も独立に向けてギフトや婚礼、葬祭などの花を手掛ける専門店を渡り歩いた他、花の仲卸会社にも勤めるなど、花を見る目と表現力を養ってきました。またアメリカのサンフランシスコの花屋でも修行をしたのですが、日本と違って気候が乾燥している地域では、花のもちが良い為に、花が生活のすごく身近にあるんですよね。そんな花を楽しむ文化の違いを知れたことも今の仕事に役立っています」。そうして岡田さんは2000年に『花工房 おかだ』を設立。以来、様々なシーンや空間に合わせた花束や装飾で、人々の生活を豊かに彩る。
「品質の良い花を届けるのは当たり前ですが、例えば出産祝いには疲れている母親を癒す優しい色の花束を、披露宴には新婦を美しく彩る華やかな色の花束を、そして誕生日には好きな色の花束を贈るなど、その方が一番喜ぶ、そのシーンに一番似合う花をつくるように心がけています」。そんな岡田さんは店舗のディスプレイを常に四季折々の花や植物で美しく装飾。また店舗内にも映画『ローマの休日』にも登場するローマの『トレビの泉』をイメージした噴水を設置し、溢れんばかりの美しい花で彩っている。
「私たちの仕事はワクワクやドキドキといったサプライズも大事なんですよ。例えば通常ではあまり使わないガラスの花器に花を活けたり、『ボックスフラワー』といって箱の蓋を開けたら花が出てきたりといった斬新な演出もそうですが、ディスプレイや店舗内の装飾には、そうした私の想いも反映されています。また店を美しく彩るだけでなく、キレイにすることも、とても重要なんですよね。例えば店を汚くしているとバクテリアが繁殖して、すぐに花が枯れてしまいますよね。私は全国の花の生産者のもとを訪ねて『作り手の想い』を聞く活動を続けているのですが、素晴らしい花を育てている生産者の農園は、どこもキレイなんですよ。そんな生産者の想いの結晶である花を台無しにすることがないように、毎日の清掃ひとつをとっても手を抜かず、花をつくる以前の仕事を何よりも大事にしています」。色や質感の異なる花や木々の組み合わせによるハーモニーや、型にはまらない独創性で、多くの人々にワクワクとドキドキを届ける岡田さん。その作品が多くの人々に支持される理由は、誰よりも花に込めた生産者の想いを知り、誰よりも花の美しい姿を知る岡田さんの、花をつくる者としての信条にあった。
「今は温室の技術などが進歩していますので、一年中、同じ花が楽しめる時代なんですが、私はその中でも季節感を大事にしています。食べ物も旬のモノが一番美味しいように、花も旬のモノが一番キレイなんですよね。それと今は昔と比べて花の香りが少ないんですよ。薔薇でも露地モノは香るのですが、切り花になると早めに切ってしまうこともあって香りが少ないんですよね。やはり視覚だけでなく、そういう嗅覚、匂いも癒しの効果をもっていますので、例えば花束の中に必ず香りの強いハーブ系の葉っぱを入れるなど、香りには重点を置いています」。そこにあるだけで美しい花に人が手を加える以上、さらに多様な魅力を引き出さなくては意味がないという岡田さん。その言葉の端々からは、溢れんばかりの花への愛情が感じられた。
「私たちは花のことを『この子』と呼んでいるのですが、花ってそこに一本咲いているだけでキレイじゃないですか。それをゴニョゴニョと手を加えて汚くするのではなく、よりもっとキレイになるように『その子』の一番イイ表情を出してあげたいんですよ。花は本当に何ミリという微妙な単位で、コロッと表情が変わりますからね。それは運動会で子どもの一番美しい写真を撮ってあげたいと奮闘する親御さんと同じ気持ちかも知れませんね」。野菜などもそうだが、往々にして生産者はキレイで真っすぐな花を育てたがるが、自然が生み出す美しさには敵わないと、例え曲がった花であっても、その形や個性を活かした装飾を心がけていると目を細める岡田さん。その座右の銘は、そんな花や自然に対する岡田さんの想いが凝縮された『感謝』という言葉だった。

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