匠の蔵~words of meister~の放送

筆工房琉球大発見【筆職人 沖縄】 匠:吉田元さん
2014年12月13日(土)オンエア
沖縄などの浜辺に自生している熱帯植物『アダン』の根で筆を作る『筆工房琉球大発見』の吉田元さん。琉球王朝時代から存在し、江戸時代には上田秋成などの京都の文人に愛用されながらも、江戸時代末期に毛筆の隆盛と共に衰退したといわれる『アダン筆』の復興に尽力。その豪快かつ柔らかい『アダン筆』の書き味は、書家からも注目されているという。
「琉球大発見という屋号は、動物を殺さずに植物で作る『アダン筆』は大発見だという思いで名付けたんですよ。今から約20年前、僕は仕事の過労で倒れ、療養中のリハビリとして書や絵に親しんでいたのですが、その中で竹筆に出会い、その素朴な構造に惹かれて身の回りにある木を叩けば筆になるかも知れないと考えるようになったんですよね。そして様々な木で試してみた中で、アダンと出会ったんですよ。アダンの木から垂れ下がっている若い気根(地上の茎や幹から出た空気に触れる根)は、水分を多く含んだ弾力のある丈夫な繊維質ですので、筆に適していたんですよね」。そんな『アダン筆』は、穂先と軸が1本で出来ている為、毛筆のように穂先が取れることがなく、さらに植物で出来ている為、墨もちがよく、毛筆とは違った線の粗さやかすれに味わいがあるという。
「自然の中で生きている人は皆、その歴史の中で自然から色んなモノを作り、自然から生活の糧を得てきましたよね。ですから自然はモノ作りをする人のチャレンジを待っていると僕は思うんですよ。しかし、人がチャレンジさせてもらう以上、自然を大事にするのは当たり前ですよね。僕の『アダン筆』は若い気根を使う為、『アダン』に負荷をかけることなく作ることができるんです。モノ作りは自然と共存してこそ成り立つモノですからね」。そんな吉田さんは、ただ200年前の『アダン筆』を復興させたのではなく、現代の技術を用い、当時はなかったという穂先を整えることに成功し、細字にも対応できるように改良したという。
「僕の『アダン筆』は作る過程が、昔のモノと違います。やはり200年前と今とでは、科学技術が違う訳ですから、当然、製造過程も今の時代に合ったモノであるべきだと思うんですよ。何故、この筆が江戸時代末期に衰退したのかというと、それは穂先がなく細字に対応できないなど、毛筆より劣っていたからなんですよね。当時の文献を見てみても、その時代の荒っぽい作り方では穂先を立てることは出来ませんからね。ですから僕は、『アダン筆』の穂先をシュっと立てるのに7年もの時間をかけて改良を重ねました。やはり復興させるからには、毛筆に負けないような筆でないと同じことの繰り返しですからね」。昔ながらという言葉は響きはイイが、吉田さんは『アダン』を乾燥させる過程で最新の機器を利用するなど、積極的に当時は不可能だった技術を取り入れ、さらに進化させた『アダン筆』を作っているという。何故なら吉田さんの作る『アダン筆』は、ただ珍しい飾りモノではない、現代の人に使われてこそ輝く道具だから。
「例えば手に取るのももったいない、穂先に墨を浸けるのももったいないという、そんな筆が理想かといったら僕はそうではないんですよね。結局、使い手が使って喜んでもらえる筆が、僕の理想なんですよ。あくまでも筆は美術品ではなく道具ですからね」。そうして日々、『アダン筆』の製作に情熱を傾ける吉田さん。その根底には沖縄への深い愛情が流れていた。
「ここ沖縄には琉球王朝時代、様々な工芸品がありました。しかし残念ながら琉球処分や第二次世界大戦などの歴史を経て、この『アダン筆』のように受け継がれることのなかった、伝わらなかった技術がたくさんあるんですよね。ですから、そういうモノを僕は残さないといけないだろうっていう風に常々、思うんですよ。僕は工房を『ドリームラボラトリー』と呼んでいるのですが、やはり夢は夢で終わらせたくありませんからね。これからも沖縄の文化を担う者として、夢に向かって実験を繰り返していこうと思います」。

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