佐賀市の中心地に店を構える昭和33年創業の老舗レストラン『白山文雅』の3代目・上野資和さん。カレー専門店を創業すべく、世界各国のカレーを食べ歩く最中に、フランス料理のシェフでもあった2代目・杉保嘉津夫さんの欧風カレーに惚れ込み、福岡の調理師学校を経て弟子入り。10年余りの修行の末、3代目として店を任され、現在に至るという。「美術大学を卒業後、デザイン系の仕事をしていたのですが、趣味が高じて現在の仕事に携わるようになりました。表現するということにおいては、デザインも料理も一緒ですからね。カレー馬鹿というのか、カレーが大好きでしたから、今は趣味と仕事が一緒になって幸せだな〜と感じています」。そんな上野さんが日本一の味と惚れ込んだ『白山文雅』の欧風カレーは、佐賀では知らない人がいないほど人気の逸品。現在はビーフやジャワ、ハヤシやタイなど9種類のカレーを提供し、全国のカレー愛好家や美食家たちの舌を満足させているという。「うちは昔の名残で、今もフランス料理も予約で受けているんですが、『白山文雅』のカレーは、そのフランス料理の美味しさ、フランス料理の味の感じ方がベースになっているんですよね。ただカレーが好きで、カレーだけを勉強していたら、この味に到達できなかったと思います。ですから、今はフランス料理を勉強して、その味付けを学んだ上でカレーを作っているんですよ。先代の作っていたフランス料理のソースを味見すると、やはり甘味から入って塩味で終わるような味の流れや感じ方が、カレーと同じなんですよね。ですから、先代はカレーのことをカレールーとは言わずに、意地でもカレーソースって言っていましたよ」。例えば出汁の効いた蕎麦屋のカレーは、和食のイロハを知らずには作れない。ベースとなるフランス料理の上に立つ、上野さんの作る欧風カレーは、そのたった一皿で、まるでフランス料理のコースを食べているような、味の流れが見事に表現されていた。「甘味から入って塩味で終わるという、その味の順番、バランスは、『白山文雅』のカレーはどのソースでも同じです。それは、うちのテーマとも言えますね」。そんな『白山文雅』のカレーには、お袋のカレーとは決定的に違う専門店としてのこだわりがある。「お袋のカレーも美味しいですからね、カレールーで作るカレーもまた美味しい。ただ専門店である以上、ただ『美味しいね』とキレイに食べて終わりというのでは、それは僕は、家庭のカレーだと思っているんですよ。一口食べた瞬間に、『うわ〜なにコレ』『うめ〜』と言わせるインパクトがあってこそ、専門店の価値があると思っているんですよ。ですから、例え残されることがあっても恐れずにカレーを作っています。家庭のカレーはスルスルと入って、おとなしくて食べやすい。でも、それでは僕は専門店として逃げている味だと思うので、それによって残されても記憶に残って貰う方を重視して、味のインパクトを優先しています。私たちは、お金を頂きますからね、何となく食べて何となく『美味しかったね』では、ダメだということです」。その姿勢は、まるでカレー道を極めようとする求道者のよう。おだやかな表情とは対照的な上野さんの言葉の端々からは、カレーが好きで好きで、カレー屋を一生の仕事と決めた男の覚悟が滲み出ていた。「とにかく味に対して、大胆であって、繊細であって、一切の妥協をしない。繊細なだけでは腰の引けた味になるし、大胆なだけでは荒いし。その両方を兼ね備えて、調和が取れて、一切の妥協なしの高みにまで持って行きたいですよね」。
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