匠の蔵~words of meister~の放送

矢鋪與左衛門窯【磁器職人 佐賀】 匠:白須美紀子さん
2016年06月18日(土)オンエア
有田焼の現代の名工、矢鋪與左衛門氏が主宰する『矢鋪與左衛門窯』で働く磁器職人、白須美紀子さん。
白須さんは伊万里・有田焼伝統工芸士認定試験の成型(ろくろ)部門で、女性初の合格を果たし、矢鋪與左衛門氏から受け継いだ確かな技術で、2016年に創業400年を迎えた有田焼の世界の新たな美を創造する。
「子どもの頃からモノを作ったり、絵を描いたりするのが好きでしたね。磁器の世界はモノを作り、絵付けをし、さらに用途まであると、私が好きなモノすべてを兼ね備えていたんですよ」。そうして白須さんは高校卒業後、有田窯業大学校に入学し、磁器職人としての道を歩もうと決意。しかしその後は入門する窯を探すのに苦労したという。
「有田焼は基本的に分業の世界ですから、すべての工程を一人で作る職人になりたいと思っていた私にとって、入門先を見つけるのは難しいことでしたね。そんな中、すべての工程を一人で作っている矢鋪與左衛門先生と出会い、運よく修行させてもらうとことができました」。一般的に一人前の磁器職人として活躍できるようになるまでは10年かかるといわれているが、それは男性の話。磁器の陶土は粘性が乏しく、その成型は男性でも重労働な為、身長147cmという小柄な女性である白須さんが、その技術を習得する為には、人の数倍もの努力が必要とされたという。
「基本的に好きだから、難しいからこそ続けて来られたと思っています。また職人としての力を身につけたいという一心で、矢鋪與左衛門先生からじっくりと基本を学ばせて頂けたからこそ、今の私があると思っています」。そんな白須さんが目指すのは、同じ形のモノを何個も作れる職人だという。
「有田焼には400年、綿々と受け継がれてきた技術がありますが、それは決して1個の作品だけを作る為のモノではありません。そのずっと繋がってきた技術を少しでも自分も受け継ぎたいというか。でもやっぱり一番は、そういう同じモノを作ることが楽しいからですね」。そうして緻密な作業をもくもくとこなすことに喜びを感じ、有田の山奥の窯でひっそりと作陶に励む白須さん。そんな白須さんは男社会である伝統工芸の世界で生きながら、女性を意識したことはないという。
「女性を意識して作品を作ったことはありませんが、お客様から『女性らしい作品ですね』と言われることはよくあります。それは自分の個性でもありますから、ありがたいと思っています。ただ私は常に自分が作りたいモノ、自分が納得できるモノを自然体で作っていますので、普段から他の人と比べることはないですね」。師匠の矢鋪與左衛門氏からは「かなり頑固ですよ」と言われると笑う白須さん。そんな白須さんの頑固さは、自らが生み出す作品にも表れている。
「もちろんですが、すべての作品をろくろで挽くっていうことに一番こだわっています。すべてが手作業ということですね。最近は本当に機械で作っても、手作り風に見えるような技術が発達しているので、どうしてろくろで挽いた方がイイのですか?と聞かれると困る部分もあるのですが、やはり機械では1個1個の作品に、少しでも使いやすいようにとか、作り手の気持ちを...想いを込めることはできませんからね」。当然、人がつくるモノは手触りが良く、薄くて丈夫であるという利点もあるが、何より作り手の想いが一番の違いとなって、そのモノを使う時に表れると信じる白須さん。そんな使う人への想いを込めて紡がれる白須さんの技には、どんな機械も敵わない。
「焼物は1カ所でも手を抜くと良いモノはできないですね。私はろくろの作業だけが好きな訳ではなく、すべての作業を通して一つのモノを作るという流れが好きですので、常に手を抜かない。そこだけは意識しています」。そんな白須さんは磁器職人としての基本技術を習得し、ようやく自分の作品を作れるようになってきたという。
「私は猫が好きなので、猫の絵付けをした作品が多いですね。あと中国の人物なども描いています。この世界は本当に終わりがありませんので、納得できるモノを作ることは一生かかってもできないと思うのですが、できるだけ自分が作りたいモノを、自分が納得できるモノを作っていけるように、これからも頑張っていきたいと思っています」。入門後から師匠の矢鋪與左衛門氏と共に、県内外で有田焼の普及活動を行い、これまで絵付けの指導は1万人、ろくろの体験指導は1500人に及ぶという白須さん。2014年には、そのような活動も評価されて、社会で活躍する女性を内閣府が表彰する『女性のチャレンジ賞』にも輝いた白須さんの座右の銘は、『行雲流水』という言葉。
『雲は悠然として浮かび、しかもとどまることなく、水はまた絶えることなく、さらさらとして流れて、また一処にとどまることがない』という意味の言葉のごとく日々、穏やかな気持ちで作品と向き合っているという白須さん。その手から紡がれる作品からは人を癒す、穏やかな気持ちにさせる独特なオーラが放たれていた。

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