匠の蔵~words of meister~の放送

水月【水炊き 福岡】 匠:林田三郎さん
2012年12月04日(火)オンエア
福岡市の閑静な住宅街に店を構え、博多水炊き発祥の店としても知られる『水月』の主人、林田三郎さん。明治38年の創業以来、一子相伝で引き継がれてきたその味は、初代、林田平三郎氏が鶏肉とキャベツとポン酢が合うということを知り、西洋料理の『コンソメ』と、中華料理の『鶏を炊きこむ』というスープ料理をアレンジして完成したという。当時、博多の土手町(須崎)にオープンした店の前には、朝8時の開店と同時に行列ができ、博多の人々の口に広く喜ばれていたことがうかがえる。「水炊きが博多の新名物として認知されたキッカケは、当時、博多で開催された『世界博』に訪れた日本全国の食通を唸らせたことではないかと言われています。それから、博多には雨後の筍のように水炊きの店が増えましたが、その名称は、白濁したスープの他所の店では、『水だき』と濁りますが、透明なスープのうちの店では、『水たき』と濁りません」。『水月』のスープは、まさに一切の濁りのない、繊細でスッキリとした味わいが特徴で、シメに米ではなく、素麺を入れて食しても旨い。「水炊きの味の決め手となるポン酢は、当時から1年間床の下で寝かせたモノを使い、野菜や鶏肉などの食材も九州原産のモノにこだわっています。また、うちの場合は、お客様の前に出す鍋のスープと鶏肉は、既に出来上がっているんですよね。別にスープを摂り、後から生肉を入れて食べて貰うスタイルもよくありますが、それでは、とても美味しい味は出せません。鶏肉をホロホロと一番良い硬さに炊き上げるためには、炊いてから最低でも2〜3時間は、そのまま置いておくことが必要です。もちろん、季節によって炊く時間は多少変わってきますが、お客様に鶏肉の食感を楽しんで頂くためには、そのような手間を疎かにしてはいけません。そして、その手間は初代の頃から変わらない、『水月』のこだわりでもありますね」。元祖としての誇り...その誇りから生まれるこだわりの味は、3代目の林田さんの手によって、さらに洗練され受け継がれていた。「水から炊くから水炊きなんですよね。スープを別に摂って水炊きを提供する店もありますが、それは水炊きではないと言ったら可笑しいのですが、本当の水炊きとは作るプロセスが決定的に違います。基本に忠実に手間を惜しまず、毎日、同じように仕事して、味に美味い、不味いがないようにすることが、私自身、一番心がけていることです」。そんな林田さんが掲げる座右の銘は、『焦らず、腐らず、奢らずに』。その言葉の裏からは、伝統に裏打ちされた『水月』の味への絶対的な自信がうかがえた。

| 前のページ |


| 前のページ |