2011年に取材した匠たちの輝く言葉を振り返る。今回は工芸の分野で活躍する匠。まずは、今年初頭に取材した、熊本で創作家具工房「BLANK」を主宰する木場祐一さん。木工には「組手」という板と板を接合する技術があるが、木場さんは32歳という若さながら熟練の職人でも困難だと言われる組手「捻り組」の技術を試行錯誤の末に習得。木のクセを読み、釘や接着剤を使用せずに、様々な創作家具を手加工で製作する。そんな木場さんの話は、手作業でモノ作りを行う人間ならではの新鮮なモノだった。「機械だとどうしても加工がドライになるんですよね。自分にとって機械から出る音というのはノイズでしかなくて、手加工で出る音というのはサウンドなんですよ。そうすると、やはり機械よりもやはり手作業の方が気持ちがこもり、良い商品が出来るんです。自分は常に感覚をニュートラルにして家具を製作していますので、作っている工程でノイズが入ってくると、凄く影響されてしまうのかも知れませんね」。野球のキャッチャーはミットの綿を抜き、ピッチャーの球を響かせながら捕るという。音は人の気持ちを盛り上げもするが、盛り下げもする。五感のすべてを研ぎ澄まし、そうして自らの仕事に臨む木場さんの工房には、今日も心地よい手加工のサウンドが鳴り響いていることだろう。そして、今年は初めて沖縄の石垣島を取材。そこで出会った、味わいのある風合いと、素朴で温かみのある美しさを併せ持つ、八重山の伝統工芸である「ミンサー織り」や「八重山上布」などを今も手織りで製造する「みね屋工房」の代表、高嶺幸子さんが手作業にこだわる理由も心に残った。「今でこそ機械の動力織機があるのですが、昔は皆、手で織りをしていましたよね。そして多分、健康や長寿、使う人が幸せになるようになど、そのような想いも一緒に込めて織っていたと思うんですよ。機械では想いを込めることは出来ませんが、人間が織ると『ありがとうございます。アナタが幸せになるように、良い柄を織らせて頂きます』というような、想いを込めることができますよね。ですから、今でもそこに惹かれて、手織りにこだわっています」。高嶺さんは、そもそもミンサー織りや八重山上布の柄の一つ一つにも、纏う人の健康や長寿、そして、アナタが好きといった意味などがあるという。形あるものはいつか色褪せてしまうが、そこに込められた想い、ストーリーは永遠に色褪せることはない。来年も想いを込めて、匠たちの言葉を届けようと思う。
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