2009年に取材した匠たちの輝く言葉を振り返る。今回は工芸の分野で活躍する匠。まずは、春に取材した、博多の華やかな飲食店が建ち並ぶ繁華街の一角...那珂川に面した場所にある、博多の筆「筑紫筆」作りの名人・河原田五郎平衛が創業したという日本一古い筆の店、「平助筆 復古堂」の河原田浩さんの話は印象的だった。「筆というのは、やはり気持ちを伝える筆記具だと思います。少し墨が手に当たって滲んだり、汚れたり、そういう部分もですね、『この人は夜中に書いてたな〜』とか色んな想像が出来ますよね。少し時間はかかりますけど、やはり、そういった手間隙かけると。書いているうちに『こういう事も書きたいな』とかですね、気持ちが伝わるような文章が出て来るような事がありますので、私は出来るだけ筆で書くように務めております」。メールは早いし安いし簡単だが、筆で書いた文字は、例え下手でも何倍も多くの気持ちを伝えてくれる。それには、どんな絵文字も敵わない。どんどん変わっていく社会の中で、残していきたい“人のキモチや習慣”を、まさに墨で書いたように“じんわり”と表現した いい話だった。そして、今年は初めて、沖縄にも取材に行ったのだが、青い海を見下ろす読谷村の丘の上で、日用雑器としての「やちむん」=沖縄の焼物を制作する傍ら、大陸の文化が匂う個性豊かな、「やちむん」の制作も手掛けている「陶器工房 壹」を主宰する壹岐幸二さんの話は心に響いた。「モノを作るというのは、格闘だと思うのですが、やはり制作をしていて一番嬉しい…楽しいのは、その格闘している時なんですよね。頭の中では自分は天才になってみたり、急に落ち込んでみたり…もがきながら作品に心血注いでいる時が一番楽しいです。失敗するリスクもあり、人に対してどう受け取られるのか? 思いのほか、受けが悪くても自分は納得してるとか…いろんな格闘がありますよね。逆に食器の方は、長い目で安定した美を供給していきたいという想いで作っています」。1つの仕事の中にも種類があることに気付かされた。土台として安定したクオリティーを保つ部分、一方でチャレンジする部分。一心不乱に打ち込んで、楽しむような…。匠は仕事への気持ちを上手に分けて、両立させていた。
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