2014年に取材した匠たちの輝く言葉を振り返る。今回は食の分野で活躍する匠。
まずは、今年の春に取材した、世界一の焙煎士『豆香洞コーヒー』の後藤直紀さん。2013年、フランスで開かれたコーヒー豆の焙煎技術を競う世界大会に、日本代表として出場し、見事、世界一に輝いた後藤さんは、福岡県大野城市白木原に焙煎用のスタイリッシュな赤い窯を備えた店を構え、世界中より集めた最高級の生豆を世界一の技術で焙煎し、香り高く欠点のない澄んだ味わいが特徴のコーヒーを提供する。
「技術というのは自分が分かっている所までしか、見えている範囲までしか向上しないんですよね。ですから自分が独学で勉強していた時は、いくら上手くなったと思っても、周りが見えていないので、そこまでしか至らないんですよ。そんな中で競技会などは、自分の至らない所を教えてくれる場所でもあるんですよね。もちろん自分の至らない所を知ればヘコむんですが、それを知れば、それが見えれば、その差を埋めていくことは可能だと思うんですよ。実は、いま自分がすごく充実している、自分が焼きたい豆がすべて焼けている時が一番不安で、ここで自分の技術が止まってしまっているのかなって思うんですよ。ですから世界大会で焼いた豆が、例えば3年後とか5年後とかに、『世界大会で恥ずかしい豆を焼いていたな』と思えるようでありたいと、常に思っていますね」。『井の中の蛙、大海を知らず』という故事があるが、世界という大海で頂点に立ちながらもなお、まだ見ぬ世界があると信じる後藤さん。そのどこまで歩んでも不満足を貫く職人、後藤さんの背中は、『代表作は?』と聞かれ、『ネクスト』と答えたという、かのチャップリンの姿と重なった。
「10年後の自分は、もっと上手く豆が焼けているハズだという、期待を持ちながら仕事をすることは、やりがいにも繋がりますよね。次の自分に期待するというのか、『代表作が次だ』という言葉は、まさにそういうことなんじゃないかなと思いますね」。
続いては、今年の初めに取材した、沖縄県宮古島の人気スポットとして知られる観光農園『ユートピアファーム宮古島』の代表、上地登さん。『人に感動を与える農業』を目指し、広大な敷地に世界50品種のブーゲンビレアやハイビスカス、さらにマンゴーやパパイヤなどの果実を展示栽培する上地さんだが、その農業にかける情熱、愛情は農園の姿を見れば分かる。
「例えば、きれいなマンゴー園で栽培されているマンゴーは、間違いなく美味しいんですよね。それはどんな素人が見ても分かります。見た目と味は正比例しているんですよね。農業の原点は育て方にあって、一生懸命に取り組んでいる人の農園は全体が調和されていて、本当にきれいなんですよ。草がボ〜ボ〜と生えている農園できれいなマンゴーは育ちませんよね。そして、そんな草の陰に隠れているマンゴーも『俺は頑張ってるぞ〜。美味いだろ〜』とは言えないですよね。やはりきれいに太陽が当たって、実が輝き、葉っぱも青々と育っているマンゴーの方が美味しいし、その味も食べる人の胸に響きますよね」。子どもの頃、勉強のできる人は机もキレイだと、よく叱られたが、同じように農園を見ると、そこに育つマンゴーの味が分かる。何故なら、それは生産者の農業にかける想い、愛情のバロメーターなのだから。
「農業における技というのは、生産者の想いを花や果実に込めることだと思います。それは機械で測れたり、数字に表れたりするモノではありませんが、私は常に花や果実に愛情を込めて、一つひとつを一生懸命に育てています。たまにフラれることもありますけどね」。そんな上地さんの農園は、まるで南国、宮古島の景色が凝縮されたような美しい姿で、訪れる人々を出迎えていた。
来年も九州・沖縄の素晴らしい匠たちの金言を紹介します。それでは皆様、良いお年をお迎え下さい。
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