2013年に取材した匠たちの輝く言葉を振り返る。今回は工芸の分野で活躍する匠。
まずは、今夏に取材した『薩摩焼』を代表する伝統工芸『龍門司焼』の窯元『龍門司焼企業組合』の川原史郎さん。『龍門司焼』は、1598年に朝鮮半島より渡って来た朝鮮人陶工によって始められた『古帖佐焼』の流れを汲む窯で、1688年に桜島を南に望む山ふところに築かれて以来320年以上の歴史を誇る。
「よく伝統を守ると言いますが、守ると考えると負担になったり、重荷になったりするんですよね。ですから我々は、伝統というのは先人たちが作ってくれたひとつの舞台だという風に考え、その舞台の上で、どういう演技、パフォーマンスをするのかということを意識しながら作品と向き合っています。『龍門司焼』の場合は、原材料や技法は先人たちが作ってくれた舞台ですから、そこを変えることは出来ません。しかし、昔と今ではお客様の感性も違いますから、デザインや使い勝手などはお客様の意向を反映させた作品を作っていくと。その中に自分の意思を入れながら、次の世代へと繋いでいくことが、本当の意味で伝統を守ることだと思います。ただ伝統というのは、時代時代で取捨選択し、良い部分だけを残してきた結果、受け継がれてきたモノですから、古い『龍門司焼』もよく見つつ、なおかつ新しい取り組みをしていくことが大事なんですよね。伝統を踏まえた原材料や技法で、それを感じさせないようなモノを作っていくことが我々の使命だと思っています」。伝統という名の舞台の上で、日々、土と対話しながら、いまの時代を生きる陶工の感性を表現する川原さん。そうして生まれる『龍門司焼』は、時代時代で輝きを放ちながら、次の時代へと受け継がれていく。
続いては、宮崎県唯一の花火製造メイカー『柿薗花火』の代表、柿薗兼利さん。
「エンターテインメント性に優れた多種多様な花火は、古来より先人たちが幾多の苦労を乗り越え、現代の高度な技術を取り入れて作られた努力の結晶です」と、柿薗さんは、そんな時代を超えて築かれた高度な技術を貪欲に取り入れ、更に研鑽を重ね花火を製造。大規模な花火大会のみならず、個人の祝い事や町の行事など、幅広い舞台で活躍する。
「花火を製造する上で私が心がけていることは、まず安全であること。火薬という危険物を扱う仕事ですから、ヒューマンエラーのないように細心の注意を払っています。そして、もう一つは素人目でも分かる技術を追求するということです。職人は、どうしても複雑でマニアックなモノを作りたがるんですよね。業界の人たちは目が肥えていらっしゃいますので、それでも分かるのですが、一般の方には理解できないと思うんですよ。ですから私は、そういう職人がマニアックな方へと向う技術を、よりシンプルな方へと向けて、誰にでも一目で理解されやすく、目に映りやすい花火を製造しています。せっかく作った花火が理解されないのは、やはり悲しいことですからね」。花火職人のような基準とするモノがない創造的な仕事の世界では、羅針盤を自分自身の中に求め、方向を定め、進んでいくしかない。それは誰を楽しませるためにあるモノなのか。そんな羅針盤をもって航海するからこそ、柿薗さんの花火は、多くの人の心に、ひと夏の感動を残す。
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