長崎は平戸の生月大橋の袂にギャラリー「Luna llena(ルナ・イエナ)」を構えるネオンアーティスト、川辺雅彦さん。建築資材置き場だったという建物を改装して作られたそのギャラリーには、川辺さんが制作したステンドグラス、ネオンサイン、ガラスアクセサリー等の作品が飾られ、その上を気持ちよい潮風が通り抜ける。「ルナ・イエナとは、スペイン語で満月という意味なんですが、ここ生月にあるから名付けました」。そんな川辺さんは東京の大学を卒業後、アメリカ、南米、ヨーロッパ、アフリカと世界中を放浪し、自身が50歳になった時に故郷の生月に帰り着いたと言う。「アフリカのアリという街を訪れた時に、浪曲が聴こえて来たんです。それは現地の音楽のはずなのに、子供の頃に聴いた日本の音楽と同じ感覚だったんですね。そうしたら懐かしくて涙が流れてきたんですよ。そして、自分の追い求めて来た感動が子供の頃の感動と同じだという事に気付いた時、一周したな〜という達成感のようなものがあったんですね。それから地に根を張って生きていこうと思い、この場所に帰り着いたんです」。ネオンアートの本場、ニューヨークでネオンとブルース音楽に傾倒したり、旅行代理店のサラリーマンとしてニュージーランドに赴任したりと、自分が興味を持ったモノに対して、全力で情熱を傾けてきた川辺さんだが、今もその姿勢は変わらない。「私はネオンアートと音楽と文学も書き続けているんだけど、どのスイッチも、いつもオンの状態です。例えばネオンアートの作品を作る時に、文学で読んだものを形で表現する。それをデザインする時に、音楽で培った全体的なリズムで、ここが一番良いだろうと思う所に線を引く。そんな風に他のモノで養われている事が生きてくるんです。理論的ではないんですけど、そういう他のことをやっていると勘が磨かれるんですね」。そんな川辺さんは、「音楽、文学、ネオンアートと、やりたい事すべてに情熱を傾けるのが自分だ」と言い切る。それが結果的に、すべて繋がりあって良い作品を生み出している。「僕が一番大事にしているのは、生活の中のハーモニーですね。そのハーモニーの中から生まれたモノを表現出来れば良いと思うんです。だから、すごく流れのままに作品を作っています。モノを作る上で一番重要な事は、自分の日常を維持するっていう事だと思うんです。それを豊かなモノ、優しいモノに出来れば、創作も無理がなく行くと思うんですよね。私はその流儀です」。アートの世界では、パーソナルな感情を表現しないといけない。その感情はアーティスト個々の流儀の中から生まれる。無理のない流儀で作品を生み出す、そんな川辺さんの「やりたいなら、やればいいじゃないですか」という言葉が印象的だった。
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