匠の蔵~words of meister~の放送

黒岩牧場【養鶏場 宮崎】 匠:黒岩正志さん
2016年01月02日(土)オンエア
宮崎のブランド鶏『黒岩土鶏』を飼育する『黒岩牧場』の代表、黒岩正志さん。児湯郡高鍋町の尾鈴山にある18ha(東京ドーム約4個分)もの広大な牧場に放し飼いすることにより、抗生物質などの化学合成物質を一切排除した餌で、鶏を飼育する技術を確立。黒岩さんはそうして生まれた『黒岩土鶏』の鶏肉を、注文を受けてから1羽1羽さばく完全受注生産制で販売する。
「養鶏の仕事で『牧場』と名付けていることにビックリする人も多いのですが、放し飼いにした鶏が自然本来の姿で山を駆け回る姿を見れば納得してもらえます。昔はどこの家でも庭先で鶏を飼っていましたが、私はそれを少しだけ大きくしただけなんですよ」。黒岩さんは以前まで大阪で土木会社を経営していたそうだが、当時自然食に興味を抱き、宮崎の実家で養鶏を営む父の仕事を継ぐことを決意。平成7年に山を購入し、自ら重機を操り現在の牧場を開墾したという。
「最初は地区の方から鶏を放し飼いすることを反対されましたが、今ではとても応援してくれています。この飼育法だと、鶏の嫌な匂いも公害も出ないことを理解してもらうまでが大変でしたね」。現在山の中に6つあるという鶏舎は鶏の成長段階によって分けられ、それぞれ鶏たちは鶏舎と山を自由に行き来しながら、のびのびと育てられているという。
「鶏を放し飼いすることの最大のメリットは、鶏に対して抗生物質や各種予防薬などの薬を投与する必要がない為、鶏が健康に育つというところにあります。本来、鶏は体調が悪くなると栄養をたくさん含んだ土や木の葉などの腐葉土を食べて、自分自身の力で病気を治すんですよ。本来、治癒能力を持っている生き物なんですよね。土は天然の抗生物質ですから、鶏は目的をもって土を食べるわけです。しかし鶏舎に閉じ込めて飼うと、鶏は土を食べることができませんからストレス緩和剤などが必要となって、薬で無理やり生かしている状態になるんですよね。私はそうではなく、鶏に自分自身の力で生きてもらおうと。鶏を生かすのではなく、鶏に生きてもらう育て方ですよね。そうすると管理する人間も見守るだけで済みますし、鶏にもストレスがかからないし、お互いがハッピーなんですよ」。そんな『黒岩牧場』の鶏たちは、ある時は土を食べ、ある時は林を駆け抜け、ある時は木の上で睡眠を取り、そして上空を鷹が飛び交えば一斉に鶏舎の中に逃げていく。
「いかに鶏たちをストレスフリーな状態で育ててあげるか。本当に美味しい鶏というのは落ち着いていて、人間が目を合わせてもそらしません。普通は目を合わせるとそらすモノなんですが、そういう鶏は美味しくないんですよね。これは鶏に限らず家畜すべてに当てはまると思います」。通常、鶏はもも肉が美味いと言われるが、『黒岩土鶏』は胸肉まで美味く、その味は放し飼いによる運動によって胸肉が発達することで生まれるという。そんな力強く濃厚な鶏本来の味が楽しめる『黒岩土鶏』は、多くのプロの料理人の舌をも唸らせていた。
「『黒岩土鶏』はフランス系の赤鶏『ラベルルージュ』という品種なのですが、これは私が鶏本来の美味しさを追求した結果、出逢った鶏なんですよ。ブロイラーより当然飼育期間も長く餌などの費用もかかりますが、飲食店やお客さんに喜んで頂けるように、これからも品種や飼育方法にこだわり、鶏本来の味を追求していこうと思います」。現在、『黒岩牧場』では6000羽の鶏を飼育しているそうだが、今後はその数を増やすだけでなく、新しい鶏の飼育にもチャレンジしていきたいという黒岩さん。その座右の銘は、自らが歩んできた足跡が今をつくるという意味の『道』という言葉だった。

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