2012年に取材した匠たちの輝く言葉を振り返る。今回は工芸の分野で活躍する匠。まずは、今年初頭に取材した鹿児島の『三弦 喜匠』の花田裕二さん。三味線を原木より製作し、最後の皮貼り、仕立てまでのすべてを一人で手掛ける人を三弦師と呼ぶそうだが、花田さんは、その三弦師として独立後、30有数年、伝統工芸的手法で三味線を製作し、日本全国の顧客を相手に活躍する。そんな三味線は日本の伝統美が凝縮され、女性的とも評されるしなやかなフォルムから、数多くの楽器の中でも工芸の要素が大きいとされるが、当然、楽器として要求されるのは音の鳴りの良さにある。「もちろん三味線は楽器ですから音の鳴りの良さが前提にあります。しかし、姿形が良い三味線は、不思議と音も良く鳴るものなんですよね。確実にそうかと言われれば、非常に繊細な楽器なので、微妙な部分もあるのですが、ただ、はっきりと言えるのは、音だけが良ければいいという考え方は間違いだと思います。日本の三味線と謳うのであれば、やはり本来ある三味線という日本の楽器としての美しさ、日本の美がないといけないと思うんですよね。ですから、おかしな格好をして良い音は鳴らないというのが、私たち職人の考え方なんです」。名は体を表すと言うが、やはり良い音を鳴らす楽器というモノは、得も知れぬ美しさ、雰囲気を纏っている。その日本古来の伝統の音色は、姿形までも伴い、花田さんの手によって受け継がれていた。続いても鹿児島から、薩摩焼の古流派の一つである『苗代川焼』の技術と伝統を今に伝える数少ない陶芸家『荒木陶窯』の陶工、荒木幹二郎さん。『薩摩焼』の主流だった重厚かつ野趣溢れる『黒もん』は、『苗代川焼』系の陶工たちが完成させたと言われているが、江戸時代より続く『荒木陶窯』は、その代表的な窯元として知られる存在。15代目にして70年余りの作陶歴を誇る荒木さんは、日用品としての『黒もん』の他、深緑色の素地に葉文様がデザインされた焼物に代表される、窯固有の天然釉薬を用いた格調高い作品も数多く手がけ、平成19年に『端宝単光章』を受賞。また、『現代の名工』にも選ばれるなど、薩摩焼界の重鎮として名を馳せている。「僕は土ですよね、焼き物の土にならなければいけない訳ですよ。そうして、自らが土と一体となった時、馬鹿みたいな話ですけど、『もう少し、ここを膨らませてくれ』と、土が言ってるような気がするんですよね」。それは陶芸家の極致に達した荒木さんだからこその感覚かと訪ねると、荒木さんは「極めてないから毎日、ろくろの前に座り続けているんですよ。毎日、工房に行って作り続けないと具合が悪い」と笑う。そんなどこまで歩んでも不満足を貫くその姿勢がある限り、83歳の荒木さんの作品は、まだまだ進化し、さらなる輝きを放つ。我々も飽くなき意欲を持って、来年も匠たちの言葉を届けようと思う。
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