大分の小京都と呼ばれる日田で、初めて江戸前の握り寿司を提供し、日田名物として知られる「たか菜巻」の元祖の店としても知られる老舗寿司店「彌助すし」の主人、三隅勝洋さん。現在は、日田の4つの寿司屋で出されているご当地グルメ「ひたん寿司」も提供。納豆、山芋、葱、酢飯を、手造りの高菜漬けで包み込んだ「たか菜巻」の他、鮎や鰻、季節の野菜などを握った彩りも鮮やかな、「彌助すし」の「ひたん寿司」は、ヘルシーで美味しいと女性客を中心に評判となっている。「たか菜巻は、まだ納豆巻も生まれていない、昭和40年頃からお客様にお出しするようになったのですが、当時は口直しとして食べられていたモノなんですよね。それが日田名物となり、今でもこうして多くのお客様から愛されているという訳です」。そんな三隅さんは、「たか菜巻」も「ひたん寿司」も、寿司屋特有の職人気質を前面に出していては生まれなかったと言う。「寿司屋は敷居が高いなどと言われますが、それは多くの寿司屋が分相応という言葉を忘れているからだと思います。例えば都会にあるというだけで、こちらの店の何倍もする法外な値段を請求し、食べ方まで指定しているようでは、回転寿司などの新しい形態の飲食店に太刀打ちできる筈がありません。『たか菜巻』も『ひたん寿司』も、分相応に柔軟にお客様が喜ぶ寿司を考えた結果、生まれたという訳です」。そんな「ひたん寿司」は町興しの一環として野菜ソムリエと共に考案したそうだが、それを、ただの創作寿司と思って口に運ぶと、良い意味で裏切られる。「これは寿司のネタが、ただ野菜になったというだけで、オリーブオイルなどを使うことはありますが、酢飯にワサビなど、寿司の基本的な部分は外していないんですよね。ですから、そこがよくある創作寿司や漬物寿司とは違う部分です。その素材の為に作った寿司であって、決して魚の代用として野菜を使っている訳ではありません。まがいものではお客様に失礼ですからね」。
どんな食べ物もそうだが、ただ珍しいだけで、人の心を動かせる程、甘いものではない。「ひたん寿司」が多くの人から支持される理由、それは三隅さんの技と経験によって生まれる、キチンと仕事がされた握り寿司だからだった。
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