昔ながらの街並みと風景が残る、熊本の下町・琴平の民家を改装したアトリエで、七宝焼のアクセサリーを製作している「創作工芸 atelier 容」の高橋容子さん。七宝焼といえば、金属製の下地に、ガラスやエナメルのような美しい彩色を施し、アクセサリーから大きな壺まで、様々な作品が作られている工芸品だが、高橋さんは、父と兄が画家という芸術一家で育ち、自らも「父に導かれ、19歳で七宝焼の世界に足を踏み入れた」と言う。「七宝焼自体、年配の方が着けているイメージが強く、初めは好きではありませんでした。でも、作ってみると不器用なりに可愛いモノが出来たんですよね。古臭いとかダサいと思っていた固定概念を、自分自身で壊せた事が凄く面白くて、じゃあ、世の中の皆が持っている七宝焼きのイメージを変えていけたら、もっと面白いかな〜と思ったんですよね」。そうして七宝焼の世界にハマっていったという高橋さん。その自由な発想から生まれる作品は、「美しいだけではなく使える」という、工芸品としての定義が中心にある。「工芸と言われる世界は、人に使って貰って初めて成立するところがあるので、やはり用と美を兼ね備えてないといけない。それを自分の自己表現で止めてしまうと、アートになってしまうんですよね。やはり工芸と言い張るからには、人に着けてもらったところをイメージして作っているので、私の作る作品は、100%自分の好きなモノのという訳ではありません。私だったら、もうちょっとココをこうしたいけど、でも、着けてもらう時には、ちょっと着けづらいから、ここは引こうとか...。そのバランスが難しいのですが、毎回、毎回、悩みながら作っています」。そんな高橋さんの作品は、日本七宝焼協会会長賞を受賞するなど、その繊細で美しい柄から、いま注目されている。「自分の作風を考えた時に、まず柄が細かいという所があるのと、小さいモノの中に大きい世界を作るのが好きなので、小さいアクセサリーにこだわって作っています。七宝焼というと、どうしても大きい柄のイメージを持つ方が多いのですが、本当に七宝の色って奥が深くて綺麗なんですよね。そういうのを、もっと身に着けてもらいたいな〜と思っていますので」。子どもの頃の遠足で、おやつは300円までという具合に枠があったからこそ、その中で、あれこれ工夫して楽しむことが出来た。それと同じように、自らが定めた小さな枠の中で工夫し、大きな枠のそれと変わらぬ作品を生み出す事を楽しむ高橋さん。もちろん、その方が面白いし、そんな引き算で勝負できる事こそが、高橋さんが匠たる所以でもある。「今は、とにかく情報が入り乱れているし、本当に沢山の作品がありますので、結局、組み合わせでしかないと思うんですが...。ただ、“モチーフは生活の中にある”という風に言われて育ってきていますので、とにかく私は、雨が降るところとか、葉っぱが枯れていくところとかを観察して、そういう所からデザインを生かしています」。
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