匠の蔵~words of meister~の放送

木葉猿窯元【窯元 熊本】 匠:永田禮三さん
2014年01月04日(土)オンエア
木葉の地に伝わる素焼きの郷土玩具『木葉猿』を製作する『木葉猿窯元』の七代目、永田禮三さん。奈良時代に起源を持ち、江戸時代の小説『南総里見八犬伝』の表紙に馬乗猿が挿絵として描かれている他、大正時代には文芸倶楽部主催の『全国土俗玩具番付』で東の横綱にも選ばれた『木葉猿』は、素朴で愛らしい姿が特徴で、今も魔除け、厄除けとして、そして、子孫繁栄の守り神として広く愛されているという。
「『木葉猿』は723年の元日、京の都から木葉に移り住んだ4人の落人が、夢枕に立った老人のお告げにより、奈良の春日大明神を祭り、木葉山の赤土で作った土で祭器を作って残りの土を捨てると、猿に化けたという伝説から生まれました。安土桃山時代には『木葉猿』の名前は全国に知れ渡っていたようで、稀代の茶人、千利休が所有していた茶入れの中に、猿のように見えるモノがあり、『木葉猿茶入れ』と呼ばれていたそうです。今では私ども1軒のみが、その伝統の火を守り続けていますが、それでも遠方から『木葉猿』を買いに訪れる人が多く、本当に嬉しく、仕事の励みになっています」。『木葉猿』で有名なモノは、『見猿、言わ猿、聞か猿』という『悪いことは見るな、言うな、聞くな』という戒めを表した『三匹猿』。この他にも、子孫繁栄を願う『原始猿』、一生食べ物に困らないようにと願う『飯食い猿』、さらに『干支シリーズ』など、『木葉猿窯元』では15種類もの『木葉猿』が焼かれている。
「『木葉猿』は昔から手仕事であるが故、素朴で、荒削りで、少し上向き加減のユーモラスな雰囲気が魅力なんですよね。ただし、その素朴さというのは意識して表現できるモノではなく、私も長年作っていますが、年齢を重ねると邪念がなくなるというのか、自然に表現できるようになるモノだと思います。私の父は、その様子を『手が枯れてきた』と言っていましたが、素朴さを表現するのは、本当に難しいことなんですよ」。一般的に素朴さというと、素人が作る作品のように、技術と縁遠いモノとして語られがちだが、決してそうではない。素朴さを表現する為には、無我の境地ともいえる作り手にとって最も難しいであろう技術が求められる。そうして生まれる『木葉猿』には、人を自然に、素直に感動させる力があった。
「以前は、私の祖母も『木葉猿』を作っていたのですが、祖母は庭先でちょこちょこっと作るんですよね。それはもう見事に素朴さが表現されていたような気がします。『木葉焼』に限らず、現在作られているあらゆるモノたちは、どこかキレイ過ぎるような気がするんですよね」。そんなキレイさを求めるのではなく、手にした人の心を癒す、ほっこりとさせる、味のある『木葉焼』を製作する永田さんの座右の銘は、『自然体で切に生きる』という言葉だった。

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