匠の蔵~words of meister~の放送

郷土料理かずみ [鹿児島 郷土料理] 匠:西和美さん
2008年01月05日(土)オンエア
鹿児島・奄美大島の伝統民謡、島唄の有名な唄者(歌い手)として知られ、郷土料理店「郷土料理かずみ」を営む西和美さん。普段は厨房で店を切り盛りしているが、店内が活気を帯びてくると、客を交え自慢の声で島唄を聴かせてくれる。「琉球王国に統治されていた時代の薩摩は楽しかったんです。でも江戸時代に薩摩藩の直轄地になってからは、過酷なサトウキビ栽培が課せられて、とても苦しかった。そんな時代に、せめて唄を歌って楽しもうと自然発生的に生まれたのが島唄なんです」。黒人音楽のルーツにも似た、まさにソウルミュージックと呼べる島唄だが、西さんは「作った人、唄う人、それぞれの感情や想いによって唄い方が変わるので、同じ島唄でも、唄者によって全く違う曲になるんです。島唄は譜割が出来ない音楽なんですよね。そこに即興で掛声がかかり遊ぶ、本当に自由な音楽なんです」と言う。しかし、一つだけ忘れてはならない事もある。「島唄は島の心が詰っています。人情溢れる奄美のもてなしの心だけは忘れないで欲しいんです」。そんな西さんの店では、「奄美の宴会の席には必ず唄がある」と言う言葉通り、毎晩、いつの間にか集まって来た地元の人と観光客が一体となって、奄美のソウルに触れる事が出来る。そして、店が多くの人に愛されている理由が垣間見られる話をしてくれた。「この店を始めて27年になるんですけど、お客さんの顔をたえず見ながら営業しています。一人で来て、沈んでいたらカウンターに連れて来て、わざと喋らせるんですよね。ここでは、やっぱりお客さんが、食べて、飲んで、唄を聴いて、笑って、一緒に輪になって喜んで帰って貰えるように気を使っています。若い子が来て座れない時は、中まで入って、そこに立って飲めって…。だから私が病気でぶっ倒れた時も、皆が手伝ってくれて、店を閉めなかったんです。その時、私は3カ月入院してたんですけど、唄の仲間が毎日来て唄ってくれて、娘が手伝ってくれて、それはありがたかったですね」。西さんが作って来たのは、料理だけではなく癒しを求めて来る人が集まる場所なんだろう。そんな場所は3カ月位で消えたりしない。モノは簡単に消えるが、その場というモノは、これからもずっと引き継がれて行くに違いない。「今、奄美の島唄は注目されていますよね。でも、かしこまって着物着て舞台に立って聴かせようか〜というアレは、中々良い唄は唄えない。酒飲みながら唄う方が嬉しいですよ。だから私は、いつも料理しながら唄ってるんです」。とにかく笑いながら食べる料理や飲む酒は、理屈抜きに美味い。「私も昔は都会に住んでいた事があったんです。でも、海と空がないとやっぱり島唄は唄えないんですよね。だから帰って来ちゃいました」。奄美大島を昔ながらの日本が残っている人情の島と表現する人もいるが、西さんの店での経験は、まさにその言葉を実感出来るものだった。

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