大分は別府にある昭和2年創業の老舗の鰻屋「いま勢」。現在は3代目となる主人、諫武久和さんと妻の成子さんが暖簾を守る、この「いま勢」は、鰻の味を真剣に味わってくれるお客しか来ないお昼だけ店を開いて、夜は営業を行わないという、こだわりの店としても知られている。そして、そこまでこだわる店の看板は、成子さんが「今でもあの世に呼びに行きたいくらい」という鰻の名人で、成子さんの父親でもあった先代が、苦労に苦労を重ねて作り上げた、秘伝のタレの味にあるそうだ。そして、その秘伝のタレの味を守り続けために、二人が大事にしている事は意外な答えだった。「余計な事しない。守るだけ、ただそれだけですよ。それを変えたらウチ終わりやわ。いま勢の味が無くなってしまいます」。しかし、お客も千差万別なら、その舌も千差万別である。「そりゃあ色々言われますよ。辛いとか甘いとか人それぞれです。でも、お父さんはね、お客さんに面と向かって言ってました。でも、お客さんが帰った後は言うんですよ。ああいう風に言ってくれる人はまだいいんやって、言ってくれる人は、また次に来たいから意見してくれる。そういう意見は聞いてとかんとって。でも、譲れる部分と譲れない部分がある。その部分がタレだったんですね。焼きに関しては少しは融通が出来ても、タレに関しては、言ってくれるなっていうね」。譲れない…と聞くと、分かる人だけにっていう頑固なイメージがある。でも、苦労をせず、努力をしてこなかった人からは、譲れない何かは生まれない。「例えば、日本食であってもね、この茶碗蒸…どっかで食べた味やな〜って思う事ないですか?そこをオリジナルで、自分の味で出している人を職人と呼ぶと私は思います。そして、私達は職人です」。職人が守る、譲れない味…そんな「いま勢」の味は、別府の名物として、多くの人に愛されている。
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