匠の蔵~words of meister~の放送

株式会社 百姓隊【農業 宮崎】 匠:谷口寛俊さん
2016年01月16日(土)オンエア
宮崎市で農業生産から加工、直売まで手掛ける農業生産法人『株式会社 百姓隊』の代表、谷口寛俊さん。20代が中心の若い生産者たちをまとめ、戦後、大量消費時代を迎え、大量生産が可能な一代交配品種の野菜が占拠した日本の畑を、伝統野菜の手に取り戻したいと、年間約40〜50種類もの伝統野菜の栽培に取り組む。
「伝統野菜とは日本各地で、代々栽培されてきた野菜です。自家採取した種を繋ぐことで、その土地の気候風土に合わせた姿へと進化していますので、味が良く、栄養価が高いのが特徴なのですが、いまは絶滅の危機に瀕しているんですよね。私たちはそんな故郷の味である、宮崎の食文化をいまに伝える伝統野菜を、もっと愛してもらおうと復元や栽培研究に力を注いでいるんですよ」。谷口さんは大学卒業後、宮崎の青果市場で卸の仕事に従事。その後、農業と小売を兼業する家業を継ぎ、2006年に『百姓隊』を法人組織化。その斬新な屋号に加え、着物を着た若い生産者たちが鍬を担ぎ、トラクターに乗ってポーズを決める斬新なポスターを制作するなど、農業の古いイメージを打破しようと活動する。
「これも農業に目を向けて欲しい。そして伝統野菜の素晴らしさを知って欲しいという想いから始まったブランド化活動の一環です。最初は農家が何でこんなことをするの?と不思議に思われましたが、世間に注目されることによって、生産者自身の喜びに繋がりますし、行政など様々なところからの支援も得られやすくなりますからね。これも伝統野菜の啓蒙活動のひとつだと思っています」。そんな谷口さんが伝統野菜の栽培に取り組むようになったきっかけは、宮崎の伝統野菜『佐土原茄子』の子孫といわれる『肥後の赤茄子』が、熊本県で保護されている様子を視察した時からだという。
「これは宮崎でも『佐土原茄子』を復元するべきだと考え、様々なところに働きかけましたが、いまいち反応が悪かったんですよ。それなら自分でやってやろうと。そうして仲間たちと共に『佐土原茄子』の復元に成功し、いまでは『糸巻き大根』『イラかぶ』『平家かぶ』『日向黒皮かぼちゃ』『鶴首カボチャ』『都がら』など、味や見た目に特徴のある全国各地の伝統野菜をたくさん栽培するようになりました」。そんな谷口さんたちが栽培する伝統野菜の情報は、ウェブサイトや動画投稿サイトなどを通じて発信されている。
「2020年に『東京オリンピック』の開催が決定しましたが、世界中から日本にお客さんを呼ぼうとしているイベントで、世界遺産に登録された和食を提供する時に、伝統野菜を使わないでどうするのと思いませんか。輸入した野菜などを刻んで『日本料理です』と提供しても外国のお客さんは喜びませんよね。日本には昔から宮崎の伝統野菜に限らず、『京野菜』や『加賀野菜』などの伝統野菜がありますので、そういう野菜を使って初めて『おもてなし』が完成すると思っています」。日本では昭和35年頃に始まった高度経済成長期を迎えるまで、各家庭の菜園で野菜がつくられていたが、その殆どは伝統野菜だったという。そんな、かつて日本には本物の野菜が溢れていたことを伝えたいという谷口さんの活動は、大量消費の時代が終焉を迎えたいま、逆に時代を先取る農業として注目されているというから面白い。
「もともと『アナタの県にはこういう素晴らしい野菜があるんですよ』ということを知らない人が多いんですよ。ですから私たちの農業が、日本の農業の本流になるまで頑張らないといけないと思っています。こういう伝統野菜を栽培する取り組みをする人が、いつまでも異端児扱いではいけませんよね」。そんな谷口さんの座右の銘は、『初心忘るべからず』という言葉。「伝統野菜の栽培を始めた頃の謙虚で真剣な気持ちを持ち続けていかねばならない」という谷口さんの活動が、日本の農業の本流に躍り出る日は近い。

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