福岡市内で鉛筆画教室『アートスタジオ・アライブ』を主宰する坂本貴彦さん。モノトーンの世界に魅了され、デザイン会社に勤務していた約30年前より独学で鉛筆画を描くように。以来、窓から射し込む柔らかな光、風になびく髪の毛、そして、毛糸のセーターの毛羽立ちなどが写真以上にリアルと評される、繊細で美しい描写が特徴の鉛筆画を描き続ける。
「若い頃から写真でもカラーよりモノクロが好きだったんですよね。色を想像させるモノトーンの作品は、コントラストが決まるとカラーを超える感動を見る人に与えてくれるんですよ」。そんな坂本さんの鉛筆画は、基本的に写真を基に描かれる。写真と一寸も違わない寸法で下書き(輪郭)を描き、パーツごとに細部を描き込んで完成するのだが、特に肖像画などにおいては、髪型や服装の乱れ、顔の表情や全体的な雰囲気など、様々な細部を修正、微調整して描く為、写真よりも整った、キレイな作品に仕上がるという。
「もともとモチーフがキレイな写真をモノトーンに変換して、自分の部屋にインテリアとして飾りたいという思いがあったんですよ。ですから私が作品を描く上で一番大事にしていることは、キレイであることなんですよね」。坂本さん自身、「現在の代表作」だと語るヨーロッパの街の夜景が描かれた大作などは、溜息がでるほどの美しさ。その繊細に描かれた光と影のコントラストからは無限の色を想像させる。
「鉛筆で絵を描く上で大切なことは、いかに黒を黒く描けるかということなんですよ。普通でしたら2Bの鉛筆で描くよりも、6Bの鉛筆で描いた方が黒くなりますよね。ですが生徒さんに言わせると、6Bで描いても10Bで描いても、私の3Bの黒さには追いつかないと。これは鉛筆ではなく、マジックで描いたのではないかと思わせるほど、私は黒をものすごく意識しています」。そんな坂本さんは、生徒さんの作品と自身の作品の間で、黒の色に差が生まれる理由は、経験と筆圧にあるという。
「鉛筆画はモノトーンの世界ですから、やはり黒と白をキレイに出せるようにならないと話になりません。グレーしか出せないとなると範囲が狭くなりますよね。白からグレーまでよりも、白から黒まで出せた方が、より様々な表現が出来るようになりますからね。ですから黒は徹底して黒く、白は徹底して真っ白くするように意識しています」。白黒はっきりとなんて言葉もあるが、坂本さんの手から生まれる白と黒の間には、何百、何千ともいえる微妙な色の違いがあるという。そんな幾千モノ色たちは、カラーの絵よりもさらに鮮やかに、色のイメージを見る者へと与える力を持っていた。
「例えば女性の唇を描く場合など、微妙な色の違いを鉛筆で表現するのですが、それがピンクに見えたり、赤く見えたりしてくれたら嬉しいなと、常に思って描いています」。現在、坂本さんの鉛筆画教室には、下は小学生から上は70代の方まで、50数名が通っているという。デッサンとは違う手法で描かれる鉛筆画は、ある程度描けるようになるまで、そんなに時間がかからないそう。無限の色を表現できる鉛筆画の世界に興味のある方は是非。
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