宮崎市内の中心街・通称ニシタチの四川料理店「Chinese table SHISEN」の料理長・財津広次さん。平成22年度の調理師関係功労者・厚生労働大臣賞に選出された、料理長の財津さんが生み出す一つ一つ手作りにこだわった本物の味は、宮崎の代表する四川料理の味として多くの食通の舌をも唸らせている。「料理人は素材の持ち味を生かした中に、自らの“つっぱり”の部分を入れなければなりません。若い頃は技術に重きをおいて“つっぱる”ことばかり考えていたのですが、それでは本物の味は生み出せませんからね」。そんな財津さんは、日本の四川料理店の先駆けである「赤坂四川飯店」の陳健民氏の弟子の下で修行。そこでは料理の実技だけでなく理論も教わったと言う。「四川料理に青椒肉絲という料理がありますが、そこには必ず細切りにした竹の子が入っています。それは肉を油で揚げる時、水分の多い竹の子を一緒に揚げることで油を爆発させて、肉を柔らかくしているんですよね。技を磨くことは大切ですが、理論もしっかりと勉強しなければ良い料理人にはなれません」。そうして財津さんは毎日勉強会に参加。理論を徹底的に頭に叩き込み、料理の技は「素材は捨てるな」という教えから、素材の切れ端などを賄いに使用して磨いてきたと言う。「四川料理は辛さと酸っぱさが特徴ですが、当時、その二つの味が組み合わされた酸辣湯を豆腐と春雨のみで作ることが出来たら辞めてもいいと言われ、来る日も来る日も酸辣湯を作り続けました。おかげで毎日食べさせられる兄弟子からは苦情がきましたけどね」。そんな財津さんは「四川のコース料理は物語」だと言う。「四川料理は辛いというイメージが大きいのですが、すべての料理が辛い訳ではありません。辛味をどこで持ってくるのか、その部分が重要です。辛い料理をポイントで使い、最後に甘酸っぱい料理で口をさっぱりさせて終わる。私は、そんな料理の後味を大事にしています」。料理長となった今でも仕込からすべて行う財津さん。そこは料理人として絶対に譲れない部分だと言う。「料理長だからといって、ただ単にズンと積まれた素材を料理するのではなく、仕込みから入るというのは私のモットーです。会社は嫌がるのですが今でも誰よりも早く来て仕込みをしています。要は組織が大きいだけであって、一人のお店だったらどうするの?という気持ちが料理人には大切だと思っていますからね。体力がなくなれば無理かも知れませんが、困ったことに私は体力が人の倍ぐらいあるんですよ」。肩書きで仕事をするのではなく、一職人として納得できるよう...日々、料理に向き合う財津さん。そんな仕事への姿勢からは、職場を治める者は、その職場で一番の職人であるべきという財津さんの料理人としての気概とプライドが感じられた。
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