「私どもの寺は禅宗です。禅と茶道は切り離せない関係にあります」。見星禅寺の住職であり、星月庵の料理に腕を振るう安藤恵薫さんはそう言う。また、禅の修行では、修行僧のまかないを作るのも修行のひとつと考えられている。よって、否応無しに料理が身につく。ちなみに安藤さんの料理の腕前は修行時代から雑誌に連載コーナーを持つ程だった。 「この寺を始めて10年くらい経った55歳の時、周りの方から胡麻豆腐とお茶だけでいいから出してくれと要望があり、この店を開きました」と、開店のキッカケを教えてくれた安藤さん。肉や魚など動物性の素材を使わない精進料理は、奥深い味わいや旨味を出すために多くの時間と手間がかかる。それを安藤さんは「作る人が精進を重ねて作るから精進料理と言うんです」と優しい笑顔を交えながら語る。今ではこの味を求めて九州はおろか、日本全国からお客がやって来る。ホテルオークラの料理長からは「長生きして本物の味を伝えてください」と言われたという。 「精進料理はあくまでも仏様にお出しする物です。その気持ちを忘れずに作らせてもらっています。ですから私は料理人ではなく、僧侶として料理を作っています」と自分の立ち位置をしっかりと持っている安藤さん。最後に「精進料理は世界に広めたい日本の心。料理でひとつの禅を表現したい」と夢を教えてくれた。
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