『九州イタリア料理協会』の会長を務める『Da fuchigami』のオーナーシェフ、渕上誠剛さん。イタリアンリゾートをイメージした店内で、『手の届くガストロノミー』をテーマに、五感を刺激するクリエイティブな最新イタリア料理を提供。それぞれの客の人生を豊かに彩る非日常の空間を演出する。
「僕は100%自分の想いが反映できる店を1日でも早く経営したいと、27歳で独立したのですが、若い頃は経営のイロハも知らずに苦労ばかりしてきましたね。本当にお客様に育てられながら、ここまで歩んできたという感じです」。本格的なイタリアンを気軽に楽しんで欲しいとオープンしたリストランテ『jamjam』に始まり、カフェレストランも手掛けるなど、大勢の若者たちが集う大名という街で、福岡にイタリア料理の文化を根付かせようと活動してきた渕上さん。ここ『Da fuchigami』は、その集大成として2店舗を併合する形で、2015年にオープンしたという。
「僕の店ではウエディングのパーティーにも力を入れているのですが、それは独立して間もない頃、あるウエディングの二次会をお受けしたことがきっかけなんですよ。当時は料理人として軽い料理でお客様をおもてなしする二次会は、お受けしたくないというのが、正直な気持ちでした。しかし、どうしてもこの店でやりたいと仰って頂いたので、僕は何ができるのだろうと考えた訳ですよ。そこで新郎新婦に、『ゲストの方々にどのように二次会を過ごして欲しいですか?』と尋ねたところ、『自分たちの家に招いたような感じにして欲しい』と仰ったんです。それからスタッフ全員で意識を統一して、ゲストが最大限くつろげるようなおもてなしをさせて頂いたんですが、最後に感動した新婦からハグをされたんですよね。また新郎からも固い握手を求められて、その時にレストランの本当のあるべき姿を見たような気がしたんですよ。料理があるからレストランが成り立っている訳はないと。そんなスイッチが入った瞬間でしたね」。料理はレストランを形づくる大事な要素だが、すべてではないと、味プラスの魅力で、その空間に様々な笑顔の花を咲かせる渕上さん。そんな渕上さんは、自分は料理人であると同時にレストラン人だという。
「料理人としてはやはり四六時中、料理と向き合うべきだと思っています。しかし僕らは料理人であると同時にレストラン人でもあるので、一人の人間として、どうお客様の気持ちにお応えしていくかということも凄く重要だと考えています」。そうして料理人としてだけでなく、レストラン人としても客と向き合い、それぞれの客の人生のページを彩るレストランの役割を全うすべく、様々なサービスを提供する渕上さん。その想いは今年の4月に熊本を中心に襲った地震を経て、さらに確固たるモノとなったという。
「僕は熊本地震の後に、炊き出しのお手伝いなどをさせて頂いたのですが、その時に食は命を繋げるモノであると同時に、人間の心を育むモノだということをつくづくと感じたんですよ。料理はただ美味しいだけではダメで、その料理は今、その方に必要なのか?その料理は今、この場に必要なのか?そんなことが凄く重要だと。ですから、ただ美味しいからOKでしょう?というような感覚は一切なくなりましたね。様々な環境にある人が、美味しいと感じる料理の場には、どんな物語があるのか?そのようなことを追求していく仕事が、レストラン人としての使命だと思っています」。『最初の晩餐』。それは熊本地震で甚大な被害を受けた益城町で、被災者にただ食事を提供するだけでなく、食を通して交流の場を提供しようと行われたイベント。そこで、食とは何たるかを知ったと語る渕上さんが、これからどんな美味しい物語を紡いでいくのだろうか。
「僕は世界中の人々が日本に来たら和食だけを味わって満足するのではなく、九州のレストランを味合わないと帰れないと思って頂けるような状況をつくりたいんですよ。それはもちろん料理もそうですが、九州のレストランならではのサービスも、日本が世界に誇れる一つの要素となれば嬉しいですね」。
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