福岡市の中心部で昼は居酒屋を借り、夜は宅配を中心に営業するカレー屋さん「あさだのカレー」のオーナー、朝田浩司さん。朝田さんは会社員の時に旅行で訪れたインドネシア・バリの魅力にとりつかれ、50歳を越えてバリ風のカフェをオープン。やむを得ない理由から店を閉めてからもファンの声に後押しされて、メニューにあったカレーの専門店として再出発したと言う。そのカレーは、ジャワのスパイスをベースにココナッツミルクと野菜がふんだんに使用されたモノ。今では、その味を求めて週に4回も届ける客もいると言う。「化学調味料を使わず、ラージサイズでは野菜を100gも使用してカレーを作っています。ルーがサラサラで食べ飽きないと、おかげさまで多くのリピーターに愛して頂いています」。そんな朝田さんは、20年前にバリを訪れて以来、20数回も足を運ぶなどバリのおおらかな文化に傾倒。しかし、カレーの味と、カレーにかける想いは、決してバリ風にこだわっている訳ではない。「日本人の自分たちが食べて美味しいと思うモノしか作らないというのが、バリ風のカフェを営業していた時からのコンセプトでした。それは、いくら本場の味だと言っても、日本人には馴染みのない味、日本人が美味しいと思わない味を提供しても意味がないと考えたからなんですよね。ですから、本場の味を追求しようなんて考えず、あくまでも雰囲気はバリ風ですが、味は日本人の口に合うものというカレーを目指しました」。それは、まさに店の看板にも掲げる朝田さんオリジナルの「あさだのカレー」。「もちろん自らの名前を店名に掲げるのは、そんな理由からです。お客さんの口に合わないのであれば仕様が無い。あくまでも自分が美味しいと思うモノを提供しています。ですから、こうすれば売れるとか、こういうやり方にすれば売れるのではないかということは、あんまり考えてないんですよね」。売れたいとは思わないのかと言う問いに、「あまり働きたくはないですかね。何故ならバリにハマってますから」と照れ笑いする朝田さんが、カレーに自らの名前をつけたのは、自らのアイデンティーを確立したいという想いと、その味に責任を持ちたいと誓う覚悟。たまには、かわったカレーでも...なんてモノではない。それはバリの匂いが香る、日本人が作る日本人の口に合う贅沢な味をしたカレーだった。
| 前のページ |