佐賀の唐津で、小さな店ながらも全国の食通に絶大な支持を得ている「鮨処 つく田」の主人、松尾雄二さん。松尾さんのお寿司は、当代随一の唐津焼の陶芸家、中里隆さんの影響を大きく受けているそうだ。「中里先生に出会い、その人柄に惚れたんですよね。そして、その中里先生に、うまくおだてられて、寿司屋の世界を本気で目指すようになったんです」。中里さんは、用の美を追求したシンプルな作品同様、本当に飾らない人だった。そして、松尾さんのお寿司からは、そんな中里さんの作品にも通じる思いを感じることが出来た。「私が目標とするところは、無理と無駄の無い寿司とでも言うんですかね。スキッとした寿司をすごくシンプルに出したいって気持ちがあるんですよ。でもやっぱり、ひけらかしたい所も出てくるんですよね。それが無理になってるし無駄になっているんでしょうね。パッと見には、何の変哲も無い、どこにでもありそうなモノで良いんですよ。妙に飾り包丁できらびやかに見せる必要も無いし、ただ、スキッとした美しさとでも言うんですかね。そう言うモノが、無理と無駄の無い寿司じゃないかな〜って思うんですよね」。シンプル・イズ・ベストなんてよく言われるけど、くっつけて、削ぎ落として、飾って、外して…、松尾さんの言うシンプルは、試行錯誤して極めたモノだろう。しかし松尾さんは、きらびやかな創作寿司などを否定している訳ではない。「ただ私の目指す寿司と違う世界にあるだけで、それを選ぶのはお客様だと思うんです。そういう意味では、回転寿司なども寿司の裾野を広げる意味でも、大変良いことだと思うんですよね」。そんな松尾さんの座右の銘は、「目くそ鼻くそを笑う」だそうだ。松尾さんは、そう合ってはいけないと笑って話してくれた。
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