匠の蔵~words of meister~の放送

博多 たつみ寿司【老舗寿司店 福岡】 匠:松畠民亘さん
2016年03月26日(土)オンエア
全国区の人気を誇る博多を代表する老舗寿司店『博多 たつみ寿司』の代表、松畠民亘さん。魚本来の旨味や美しさを活かした調理を信条とし、看板料理の創作寿司には職人の感性とアイディアで、それぞれの魚に合う味付けが施されている。
「私どもが提供する創作寿司は、醤油を付けて食べるスタイルではありません。これは生魚が苦手なお客様にもお寿司を美味しく頂いてもらおうと、開店当初から試行錯誤を重ねて生まれたモノなんですよね」。例えば鯛の場合は、鯛の上に煮切り代わりに塩水を塗り、その上にアンチョビと海ぶどうを重ねる。生の穴子の場合は、塩水を塗った上に柑橘類を搾り、鯛のわたの塩辛をアクセントに添える。そしてイカの場合は、シャリとの間に海苔を挟み、塩水と梅肉で甘さを引き立たせるといった具合に、『博多 たつみ寿司』の創作寿司には、その日の新鮮なネタの旨味や美しさを最大限に引き出す為の様々な工夫が施されている。
「昭和55年に長浜中央市場の向かいの路地を入った一角にオープンして、現在ではその『長浜店』に加えて、博多区の『総本店』、『岩田屋7F店』、『岩田屋地下2F店』という4店舗で営業を続けています。途中、韓国やハワイでも営業を行っていたこともありましたが、今もこうして店を続けられているのは、決して私一人の力ではありません。私と一緒に歩んでくれた素晴らしいスタッフがいるからこその結果だと思っています」。現在、『博多 たつみ寿司』では36人の職人が働いているそうだが、松畠さんは『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば、人は動かじ』という名言を残した連合艦隊司令長官、山本五十六の言葉を胸に、スタッフとコミュニケーションを重ねてきたという。
「叱るだけが教育ではありません。できないことは自分でやって見せて、次はその通りにやらせてみる。そしてできるようになれば思いっきり褒めて上げることが大事だと思います。技術は繰り返し、繰り返し行っても簡単に身に付くモノではありません。でも簡単ではないからこそ、繰り返すしかないんですよね」。そんな松畠さんがスタッフにも忘れない気遣いは、『博多 たつみ寿司』の様々なスタイルを形作っていた。
「一番の接客は何だろう?と考えた時に、例えば目の前の女性のお客様が自分の大好きな彼女だと考えたら、『コーヒー冷めていない?大丈夫?』とか、『お砂糖入れる?』とか、最大限の気遣いをしますよね。また年配のお客様が彼女のお父さんだと考えたら、これも同じように最大限の気遣いをすると思うんですよ。ですからスタッフには、そういう風に目の前のお客様は自分の大切な人だと思いながら仕事をしましょうと。そういう気遣いができれば、お客様は必ず満足して下さると思いますからね」。看板料理の創作寿司が、生魚が苦手な客への気遣いから生まれたように、シャリを常に30度以上の温度に保つことも、少しでも美味しく味わって欲しいという客への気遣いから生まれたと、『博多 たつみ寿司』のすべてスタイルの基本には、愛する人への想いと変わらぬ気遣いがあるという松畠さん。そして、そんな客への気遣いができる環境づくりにも、まさに気遣いを忘れない松畠さんの店は、その味だけではない魅力で、日本中のファンから愛されていた。
「私がお風呂に入っていようと何をしていようと、現場では営業をしている訳ですよ。ですから、その人たちに、いかに気持ちよく行動的に仕事をしてもらうかという環境づくりは、何より大切にしています」。そんなスタッフには直筆の書で『出逢いに感謝、毎日初心の繰り返し、気づかい、言葉づかい、思いやり』という言葉を伝え、その精神で、日々、様々な客を最高の気遣いでもてなしている松畠さん。その座右の銘は、味も包丁も一瞬の油断が大事となる厳しい現場を生きる人ならではの『常に紙一重で魔物が住んでいる』という言葉だった。

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