匠の蔵~words of meister~の放送

雪花ガラス工房 生-Say-【ガラス作家 福岡】 匠:青木耕生さん
2015年03月28日(土)オンエア
福岡市郊外の閑静な山間に工房を構えるガラス作家『雪花ガラス工房 生-Say-』の青木耕生さん。青木さんはガラス工芸の世界ではタブーとされているヒビを、模様としてあえて取り入れた『雪花ガラス』というオリジナルガラスを考案。その美しくキラキラと輝く繊細な模様は、まさに大気の中を舞う雪の花のよう。
「子どもの頃から透き通ったモノが大好きで、最初はジュエリーの世界に入ろうと思っていたんですが、ガラスに出会ってしまったという感じですね。ジュエリーの世界は原石を磨くのが仕事ですよね。でもガラスの世界はその原石を生み出すことができますからね」。そうして大学卒業後、福岡のガラスメーカーを経て、山口のガラスメーカーに勤務することになった青木さんは、そこで『雪花ガラス』の根本となる技術と運命的な出会いを果たしたという。
「このヒビをガラスの模様に取り入れる技法は、もともと東欧のブルガリアにあったガラス細工が起源だといわれているんですが、現在は絶滅して日本の北海道と山口にしか残っていなかったんですよ。その一つである山口のガラスメーカーでは、『内ひび貫入ガラス』という名で残っていたんですが、そのガラスの一つとして同じ模様のない奥深さに惹かれたんですよね」。その後、青木さんは『内ひび貫入ガラス』の技法に、独自の工夫とアイディアを取り入れたオリジナルのガラスを作ることを決意。2005年に独立し、自らの工房を開いたという。
「このヒビは軟質ガラスを硬質ガラスで挟み込むことにより生まれます。強度が異なる2つのガラスは冷めて固まる温度も違いますから、ゆっくりと冷やすと真ん中に挟まれた軟質ガラスの層に細かな亀裂が生まれ、それが雪の花のような模様になるんですよ。普通、溶解炉から出して30分から1時間で7割から8割のヒビが入るんですが、ずっと入ることなく3日目に急にヒビが入ることもあって、1個1個でそのヒビの入り方まで違います」。そのガラスを彩るヒビは、生まれた瞬間から時間をかけてゆっくりと成長し、その増えていくヒビの変化を楽しむのも面白いという。
「ヒビといえば引き出物などの贈り物として敬遠されることも結構あるんですが、僕は『これは育てるガラスだと思って下さい』と提案しています。運が良ければヒビが入る瞬間にガラスが奏でる、ピンと澄んだ心地よい音も聴けますので、2人でヒビを育てながら楽しんでもらえればと思っています」。そんな青木さんの手によって生まれる『雪花ガラス』は、耐熱ガラスの為、熱湯を入れることも可能で、現在はJR九州の『ななつ星 in 九州』の茶器にも採用されているという。
「この『雪花ガラス』の技法はヒリヒリしたモノなんです。ちょっと間違うと破損に繋がりますし、ちょっと足りないとまったく意図したヒビは入らないという。でも僕はそこに若干惹かれるんですよ。ガラスといえば当然、癒しも必要ですが、僕はそんな緩い感じのモノよりはピンと張りつめたシャープな感じのモノが好きで、ガラスにもそういう要素を求めてしまうんですよ。もちろんシャープさを突き詰めていくと機械で作った製品に近づいていくんですが、人間にしか出せない煌めきやシャープさというモノが絶対にありますからね」。芸術はタブーをもったら衰退するというが、そのヒビも異なる種類のガラスを合わせることもタブーとされるガラス工芸の世界で、そんなタブーを逆手にとって新たな芸術の世界を切り開いた青木さん座右の銘は、『好きこそ物の上手なれ』という言葉だった。
「好きこそ物の上手なれというのは、そうであって欲しいっていう願いもあるんですよね。ガラスの好きさ加減では誰にも負けないと思っていますから。この言葉通りであれば負けないだろうと」。そんなどんな困難であろうとも『好きこそモノの上手なれ』と、楽しみに変えて歩む青木さんは、その『雪花ガラス』のように、これからも新たな芸術の花を咲かせていくことだろう。

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