国民的漫画『美味しんぼ』の98巻に実名で登場する対馬を代表する老舗郷土料理店『志まもと』の女将、島本美穂子さん。対馬産の天然活魚を使った『お造り』のほか、『ろくべえ』『石焼き』『いりやき』『地鶏鍋』など、多くの食通の舌を唸らせる旬の食材を使った郷土料理を提供する傍ら、島の歴史や文化にも精通し、その魅力を伝える活動も行う。「私は40年以上も前に福岡から対馬に嫁いできたのですが、かつて大陸との交易で栄えた歴史をもつ対馬の文化的な水準の高さに驚きました。そんな対馬の歴史や文化の素晴しさを料理以外でも伝えることができればという想いで、お客様をおもてなししています。折角、こんな遠い島まで来ていただくわけですから、一期一会の気持ちを忘れないようにしています」。韓国の釜山から船で約1時間の距離にある対馬には、毎年、10万人以上の韓国人観光客が訪れるという。「ここは国境の島ですので私たち対馬の島民は、昔から韓国の皆さんとも仲良く民間交流をしています。『日本は良いところだった』と思って帰っていただきたいですからね。政治的な問題とは関係のないところで、争わないように心からのおもてなしを心がけています。ですから食事のマナーなどの文化が違っても、それを私たちが心得て韓国の皆さんに合わせてあげる。さらに着物で接客したり、日本舞踊を披露したりすると、本当に皆さん喜んでくださるんですよね。『歌舞伎を見た』と勘違いするように」。地理的、歴史的に韓国と交流の深い対馬に嫁いだ者の使命として、日本と韓国の架け橋となるように尽力する島本さん。そんな『志まもと』には国と国ではなく、人と人とが心と心で交流する姿があった。「縁あって対馬に来たのですから、日本と韓国を繋ぐことがお仕事だと思っています。お料理を出すだけではなく、そんな大きな気持ちで互いをつなげたらいいですよね。心だけで、そういうことが出来るんですから。ですから言葉が通じない時は、笑顔で接客をしています。笑顔でね」。
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