全国屈指のお茶どころ、知覧町でも有数の茶の生産者、後藤正義さん。後藤さんは現在のような知覧茶ブランドが確立していない黎明期から、地域の特性を活かした知覧茶の生産に取り組み、茶の全国大会や品評会にも積極的に参加。3度も日本一の称号である「農林水産大臣賞」を受賞し、知覧茶の名を全国に広げることに成功する。「高校卒業後の2年間は東京で働いていたのですが、父の体調が悪化したのを理由に家業を継ぐことになりました。父がまだ健在の頃は流通の心配などなかったのですが、自分の代になった時、まず自分の作るお茶というモノは、どのようなモノなのか?を知ってもらうことから始めなければならなかったんですよね」。そうして後藤さんは、良いお茶の選別など膨大な手間と時間、そしてお金のかかると言われる品評会に出品するお茶の生産を開始。20年後の平成元年、ついに「農林水産大臣賞」を受賞する。「例えば、車や衣服などを買う場合、私たちはブランド品だからこそ選ぶことが多いですよね。どんなに自分が口で良い商品ですよと説明しても、他の目安がなければ、なかなか判断できませんよね。ですから、もちろん口にして美味しいことが第一条件ですが、それ以外にも農林水産大臣賞をとったお茶ですというように説明できることが大切なんです」。どんなに格好良くブランドなんてと言ったところで、人はやはり、往々にして最後はブランドに判断を委ねてしまう。まず知ってもらいたい。そう願い、自らの技術と知覧という土地が持つ力を信じ、ブランドの確立に挑み続けた後藤さんの知覧茶。その味は、もちろんブランドにたがわぬモノ。「初めて手にとっていただくためには、やはりブランドは大切ですが、その次に繋がるかどうかは、消費者の皆さんの舌に訴えることのできる商品であることが大切です。それを忘れてしまうと本末転倒ですからね」。毎年変わる土と気候、そんな変化と戦わなければならないお茶の生産現場で求められるのは臨機応変さ。「前年の常識が通用しないのが茶づくりの世界です。ですから、毎年がチャレンジですよね。農林水産大臣賞を頂くまで20年間、何度も入賞は果たしていたのですが、やはり頂点に立ちたいと願いここまで頑張ってきました。ですから本当に賞を頂いた瞬間は、努力に勝る天才はなしという言葉を実感しましたね」。現在70歳の後藤さん。そのお茶への情熱は衰えることがない。
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