桜島を一望するアトリエで、何年間も乾燥させた花びらのみを使い、それをキャンパスに重ねて絵を描く“ペタルアート”と呼ばれる作品を制作するアーティスト、ミヤギタケオさん。ペタルアートは、ミヤギさんが考案したオリジナルアートで、ペタルとは英語で花びらを意味すると言う。「5年以上の時間をかけて自然に乾燥させた花びらは、変色を重ねて本来の色とは違う、奥深い色合いへと変わっていきます。花は飾られている時が最高に美しいのですが、その後も人々を感動させることが出来るんです」と、ミヤギさんは花びらで桜島などの雄大な鹿児島の自然を描き、その花たちに第2の人生を与えている。そんなミヤギさんは、かつて鹿児島の百貨店の宣伝部で働きながらも、自らが始めたペタルアートの世界を極めようと定年前に退職。花ひとひらの美と可能性を追求している。「以前務めていた会社は、役職定年が55歳なんですが、定年を迎えてやると、どうしても趣味の延長ではないかと…。自分の気持ちの区切りもそうですし、はたからでも、そのように見えるだろうというのがありましたので、本気だという意味で、前倒しして53歳で退職しました」。鳥の羽根のようにも、蝶の羽のようにも見える幻想的な色へと変化した花びらが、何百…何千枚も折り重なって生まれるファンタジックな風景。ミヤギさんは、乾燥させた花びらと対面する瞬間がたまらないと言う0?「花びらは漫画本に挟んで乾燥させるのですが、その漫画本自体は、私にとって玉手箱のようなものです。パッと開いてみて、これは、こんな使い方をしようというのは一瞬で思いつきます。ですから基本は、花びらの面白さに助けられながら作品を作っているという感じですね。この花びらを面白くしてやろうではなく、この面白く出来上がった花びらを、どう生かしていこう、どう目立たそうということです。ですから、これを隠しながら何枚も重ねるというよりは、シンプルに良い作品を作れるように努力しています」。長い年月をかけながら花びらの持つ芸術性を引き出し、シンプルに見る人の心に響く作品を生み出すミヤギさん。その制作過程を語るミヤギさんは本当に楽しそうな笑顔を浮かべる。「ファンタジックな世界の楽しさというのは、誰しもが心のどこかに持っていますよね。花びらを構成していく時、ただ端的に並べるよりは、どこかに遊びを入れるというか…破れた花びらであったり、虫くいの花びらであったりが、一つの“味”になるんですよね。ですから、キレイ、キレイの花びらだけが材料というわけではなく、破けていようが、どうしようが、それをそのままドンと使うと作品がさらに面白くなってきます」。自由に色を創造し、自由に形を選べないペタルアートという芸術は、ある意味、不自由なもの…。しかし、ミヤギさんは、その不自由さに面白みを見出し、ひとひらの花びらから大いなる発想を生み出している。逆境を楽しむ...。そんな余裕がミヤギさんんのペタルアート作品に、“味”という奥行きを与えている。
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