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提供:創価学会
FM福岡(土)14:55-15:00
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2020年1月18日「東京風景」

浮世絵師歌川広重は『江戸名所百景』で江戸の町を描いていますが、『東京風景』という版画集で昭和の東京の街並みを描き、「広重4世」と呼ばれた男がいます。
それは日本人ではなくフランス人、ノエル・ヌエット。

フランス語教師として大正15年に初来日したヌエットは、東京の街並みに魅了され、授業の合間にスケッチブックと万年筆、カメラなどを入れた鞄を携えて広重が描いた場所を探し出し、その姿を次々にペン画に仕立て上げました。
以後36年間、フランスが敵対国となった戦時中も日本に留まり続け、戦後の風景も描き続けたのです。

昭和37年、75歳になってフランスに帰国し、パリのアパートの質素な部屋で余生を過ごすヌエットを日本の友人が訪ねたときのこと。
ヌエットは「もう私も年老いた。再び東京を見ることはあるまい」と呟きながら自作の版画『弁慶橋』を愛おしげに撫でました。
しかし日本の近代化が進み、その時既に弁慶橋の上には高速道路が架かっていたことを、友人はヌエットに伝えることができなかったといいます。

彼のペン画から生まれた版画はどれも品の良い色調と落ち着いた空気感が漂い、美しいノスタルジーを見る者の胸に呼び起こします。
在りし日の東京の面影は、ノエル・ヌエットの優れた技によって永く後世に伝わることでしょう。