10/20「対面販売のレジ係」
ある町に夫婦で営む小さな食料品店がありました。
ところが、近所に大手スーパーが開店すると、店の売上げが落ち込み、ついに夫婦は店を畳んでしまいました。
仕事を失った奥さんはパートに出ます。
パート先は、店を閉店に追いやった、あのスーパーのレジ係。
複雑な思いを胸に、それでも彼女は一生懸命に働きました。
半年も経った頃、不思議な現象が起きます。
彼女のレジに並ぶ買い物客の列が他のレジに比べて明らかに長いのです。
隣のレジが空いているのに、彼女のレジに並ぶ客が誰一人移っていかないこともあります。
なぜ彼女のレジだけ人気があるのか?
その訳を彼女自身わからなかったのですが、レジ前に立ったお年寄りの客が、こう言ったのです。
「私はね、あんたと話すのが楽しみで、ここに来るんだよ」
他の従業員は黙々とレジを打っていますが、彼女は一人一人の客の顔を見てにっこり微笑み、声をかけているのです。
それは、彼女が小さな食料品店を営んでいた時に、ごく当たり前にやっていた接客。
その習慣で無意識に声がけをしていたのです。
そのことに気づいた瞬間、彼女は胸がいっぱいになり、自分の店を閉店に追いやったスーパーで働いていることの蟠りが消えたそうです。
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