7/21「ある高官の謝罪」
昭和30年代のこと。
重い身体障害をもつ子どもたちの世話をする施設がありました。
入園希望者は多いのに、施設の運営は火の車。
思いあまった園長が国から補助金を得ようと陳情に行きました。
面談した若い担当官は園長の話を熱心に聞いてくれましたが、結論は
「国民から預かった大切な税金を、治る見込みのない人たちのために使うわけにはいかない」
という厳しい言い方でした。
その言葉に園長は深く失望しましたが、施設はその後、民間からの寄付や自治体からの支援でなんとか存続していきました。
月日は流れて昭和60年代。
その施設に政府の高官が視察に来ました。
園長が出迎えたのは、数名の部下を引き連れた事務次官。
その事務次官が園長に深く頭を下げてこう言ったのです。
「私は昔、あなたの陳情をすげなく断った者です。
あれからずっと自分の言い分の軽さが胸につかえていました。
あの時の非礼をどうしてもお詫びしたくて参りました。どうかお許し下さい」
丁寧な詫びの言葉を笑顔で受け止めた園長と固い握手をした事務次官は、後ろに並ぶ部下の若い官僚たちを振り返ってこう言いました。
「君たちは絶対に私の轍を踏まないように、きょうのことを心に焼き付けてくれ」
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